【掌編】

□【掌編】十三話
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「つっきー?」

 変な渾名で呼んで、茄后美はみんなから恐れられているとまとにも頓着せずに、ふつうに肩を揺さぶってくる。
 反応がないので小首を傾げ、とまとの視線を追って――。

「へう」

 変な声をあげると、たらりと垂れたよだれを服の袖で拭った。

「ああ、わんちゃん」

 楽しそうにつぶやいた茄后美の見ているほう、校庭に、一匹の犬がいた。顔立ちのきりりと引きしまった、筋肉質なドーベルマンだ。その軍人めいた雰囲気に『わんちゃん』という呼称はだいぶ似合わない。

 この町もわりと田舎なので、校庭に犬がまぎれこむことはさほど珍しくない。そのたびに犬は追いかけ回されたり女子に抱きつかれたり眉毛を描かれたりするわけだが、この犬に迂闊に触ると噛みつかれそうだし、誰も近づけない。
 獰猛な気配を漂わせ、視線に気づいたようにその犬はこちらを見据え――。

「ひいいっ!?」

 とまとが青ざめて椅子を蹴飛ばすようにして立ちあがると、ものすごい勢いで教室のいちばん後ろに並んだロッカーのひとつに飛びこんだ。内側から扉を閉め、出てこなくなる。
 麻呂中最凶と謳われた人物が、犬に怯えて逃げた。
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