【掌編】
□【掌編】十四話
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『授業中なんだけど』
『わかってますよ、お姉ちゃんは軍辞くんのことなら何でもわかってます』
音速で返事が届く。何かむかつくが、まぁいい――姉のこういう性格には慣れている。
『何の用なんだよ』
『それが、たいしたことじゃないんですけど。お母さんが倒れちゃって♪』
「大変じゃねぇか!」
思わず声をあげてしまい、教室中の注目が集まる。軍辞ははっとして「何でもない」と身振りで示してから、早まる鼓動のなか返事を打つ。
『どういうことだ。おふくろ、どっか悪いのか?』
軍辞の両親は離婚しているから、厳密にはもう『お母さん』ではない。とはいえ、喧嘩をして別れたのは両親であって、軍辞は母に何の怨みもなかった。
むしろ、自分勝手な父に振りまわされ、深く傷ついたあのひとを心配している。
哩音がそばで支えているからだいじょうぶだろうと思っていたが、母子家庭の実情はなまなかではない、母はあまり生活能力のあるひとではなかったし。
『もともと、あまり身体の丈夫なひとじゃないですしね。無理がたたって寝込んじゃった的な。いちおう病院で診てもらったら過労ですって、いま入院して様子見てます。いちおう、軍辞くんにも伝えておこうかなって』
もちろん、『おまえらのせいだ』とかの恨み言ではなく、純粋に家族だった相手だから、ということだろう。