【掌編】
□【掌編】十四話
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父ではなく軍辞に連絡してきたのは、哩音が父とはひとつの屈折を抱えているせいと、そして父はそういうところ冷淡なひとだから――「あぁ、そう」ぐらいの反応しか引き出せなくてむなしいからだろう。
『お見舞いに行くよ、面会謝絶とかじゃないよな? どこの病院?』
『うん、ありがと軍辞くん』
哩音もこちらの気持ちを汲んでくれたのか、病院の住所とHPのアドレスを転送してくれる。そして、何でもないふうに。
『いやぁ、正直助かります。お母さんの入院代を稼ぐためにバイト増やしたらあたしまで風邪ひいちゃって、お見舞いに行けないんですよ』
『アホか』
『うう、軍辞くん助けて。りお姉お友達がいないから、こういうときどんな顔をしたらいいのかわからないです』
『もう笑うしかないと思うぞ』
見た目は軽薄だけど、ほんとは、がんばり屋さんで――いつだって、苦労を背負いこんでしまう姉だ。軍辞は呆れながらも、納得もしていた。
そして、こういうときこそ支えなくてはと思った。いつもお世話になってるぶんだけでも。そんなこと、恥ずかしくて本人には言えないけど。
『〈秘密結社〉の連中に看病を頼もうか?』
と質問してみたら、返事がなかなかこない。憂鬱な中学生たちの互助組織――〈秘密結社〉に所属している軍辞と哩音だが、哩音は何だかまだ一定の距離をとっているようで、心を開いて語れる相手がいないような。
弱ってる姿を見せたくないのかも、格好つけたがりだから。