(仮)彼女の話

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彼女はいつも笑っている。

イヤなことがあっても、
イヤなことを言われても、
理不尽な出来事も彼女は受け止めるかのように口角を上げ、優しい眼差しを向けている。


それゆえ、
優しいと勘違いするもの、
その仮面のような顔を剥がしたいとするもの、
僕は後者で僕を拒まない彼女を都合良く利用してやろうと思っていた。

暇つぶしだった。

上手くいかないことへの憂さ晴らしと八つ当たり、
見下して一時の優越に浸れればよかった。

優しい言葉と優しい仕草、彼女は僕を好きになる……

だけど僕は彼女を好きになんてならない。

彼女の幸せを考えてると願うと口に出しながらも僕が彼女を幸せにしようとは考えていない。

だけど彼女は……
僕のことを好きになり一時、楽しませてくれるはずだった……

だけど彼女の心には僕はいなかった。
いや、彼女の目にすら僕は写ってなどいなかった。

だが、彼女は僕を暇つぶしになど考えてなくてましてや好意なども持ってなどいなかった……。
彼女に会ったのは入社後半年がたった頃だった。

変な時期に新卒をとるなんて変な話だと思っていた。
しかし周りの同僚たちは男だらけの社内の中でやっと紅一点、女の子が入ってくることでみな浮き足だっていた。

そう、上司からは
『かわいくキレイな子』だと聞き、この日をみな心待ちにしていたのだ。

みな昼休憩をしながら彼女が来るのを待っていた。

『失礼します。』
甘くて高い声が聞こえた。

僕の隣の席に座る同期は待っていましたとばかりに走って出迎えた。

『失礼します』と再び声がしたほうを向くとスラッと背が高く遠慮がちででもこれからの会社での生活に期待に膨らんでいる顔だった。

僕は少し癇にさわった。

この頃、僕のいた部は廃止寸前に追い込まれていた。

僕は自他共に認める野心家だ。
ゆくゆくは全てを仕切り、羨望され、トップに立ちたい。
独り立ちをし、成功をおさめる。

その僕の人生設計が狂おうとしている。
その焦りの中、未来に夢膨らませている彼女の顔が気に入らなかったのだ。
彼女は男だけしかいないこの部で愛想を振りまき、なんとか少しでも気に入られようと健気に努力している姿が手にとるようにわかった。

しかし周りはたった1人の女の子にきつく当たった。
そうみな見下していたのだ。
彼女はこの部には向いていなかった。

だからといってみな手を貸さず、支持も与えなかった。

みな、この部が危ないこと、自分の身も危ないこともわかっていた。
誰よりも上司に好印象を残したい。
それだけだった。

それゆえ、弱いものへの集中攻撃は止まらない。


隙だらけの彼女。
付け入る隙はたくさんあった。

そして面白いくらいに彼女は僕を頼りにし、恋心を持っていった……
ように見えた。

手を握り、肩を抱き、優しい言葉を囁き、時に突き放し、また近づく……

唇を重ねることに成功し、彼女の1人暮らしの家に上がった。

僕はまた違う女の子と付き合っていた。
どちらかと言えば、その子が本命だった。
ただ男のさが、その本命とはまた違うタイプの彼女にちょっかいを出すのもやめられなかった。

それは僕にとって心地よいものだった。
二人の女が僕を必要とし僕に好意を持っている。
仕事でも僕は先輩達を差し置いて上司の信頼を確実に得ていた。
そんな時、彼女が辞表を出した。

僕には寝耳に水で、腹が立った。

彼女は僕に何でも相談し、僕の言うことを聞くと思っていたからだ。

しかし彼女は僕に何も言わず、机をキレイに掃除し出て行った。

僕は意地になって一言も話さず、連絡もしなかった。

その内、弁護士が来た。
彼女も一緒に……

その時の彼女に皆、目をうたがった。

今までの彼女とは違う女がそこにいた。

しかし僕があえて目を臥せていただけで周りは彼女が少し違うことに気付いていた。

『だってあの子と店に入ると何人かはチラチラこっち見てたし……』
『彼女、英語ペラペラだったし……』

僕はただただ驚きを隠しながら聞くことで精一杯だった。

そして自分に何も見せていなかった彼女に腹をたてながら聞くことしか出来ない自分の器の小ささにまた怒りを覚えていた。

頭ではわかっていた、人は隠し事もウソもある。
だけど彼女のことは僕は手に取るようにわかると自負していたのだ。

しかし何一つ知らなかったのだ。
本当の彼女を……
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