main
□行き止まり
1ページ/1ページ
「あんたが性別を変えて生まれ変わったのは―――やっぱり俺のせいなのか……?」
斎悧はどうしても聞きたかった。
無理矢理ユキを手に入れた後、ずっと罪悪感が消えずにいた。
次に会ったとき彼女に謝罪するつもりでいた。
そのまま戦いに突入し、二度と再会することもなく転生してしまったのだが。
今からでも謝りたい。
そう思っていた。
「え……」
何のことやらわからず戸惑う夕月。
“あさぎ”
再会した瞬間、夕月は無意識に自分の名前を口にしていた。微かに記憶が残っているのかもしれないと思った。
「あの……すみません僕、何も覚えてなくて……」
それだけ彼女にとって忘れたい記憶だったのか。それとも記憶にも残らないようなちっぽけな出来事だったのか。
どちらにしても、あのときの彼女はもういない。
目の前にいるのは夕月という名の少年だ。
「……そうだったな……。悪い忘れてくれ」
斎悧は転生してもユキへの気持ちを引き摺っていた。
あのときの言葉は嘘じゃない。
それほどまでに彼女を愛していた。
例え男に生まれ変わっていても、気持ちが変わらなかった。
「斎悧さん?」
無防備に開かれる唇。
誘われるように指先で触れた。
「ユキ……」
そのまま顔を近づけて思わず唇を押し付けそうになった。
罪を再び犯す訳にはいかない。
瞬間、ユキの泣き顔が頭の中にフラッシュバックしてぐっと堪えた。
もう彼女を泣かせたくない。
「行くぞ」
何もなかったように歩き出す斎悧。
「あ、はい」
不思議そうな顔をして夕月が後を追う。
この恋は完全に行き止まり。
そう感じた雨上がり。