小説

□言葉なんて期待しない
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多分。僕があの人に「好きだ」と伝えたとしてもあの人は僕の言葉など本気にせずただ「有難う」と気持ちではなく言葉に御礼を言ってなかった事にされると思う。 だけど僕も万一にあの人に「好きだ」なんて言われたらどう返していいかわからずに全て沈下してしまうかもしれない。だけどこの思いは虚偽などの空想紛いなものではない。あの黒髪があの赤くどこか人を見下したような瞳が恍惚と無邪気に笑うあの唇が全て愛おしい。

だけど

あの人の持つもの全てが憎い。

あの黒髪を乱して、あの瞳を穢して、そして肺の奥まで毒を侵入させて息すら付けないようにさせてみたい。そして僕だけしか頼れないように縋るべき存在は誰なのか定義つけてあの人の全てのを壊してやりたい。とも思っている。
ガヤガヤと外野が煩い。今は機嫌がよくないから慣れたはずの人混みの音が一段と耳に障った。周りにいるのは全て人。

あの人が愛しているのは “人”

唇を強く噛んだ。解っている。これは嫉妬だ。この普通に僕の横を通り過ぎて行くのも人。目の前の茶店で働いているのも人。全てがあの人の愛すべきモノ。
凄くムシャクシャした。心に鉛が乗っかったような。気持ちが悪い。吐き気がす
る。僕は悪寒と嘔吐を覚え一旦人混みから出た。

「あれ? 帝人君?」

人混みを出ると声がした。優しくてどこか冷たくて残酷な透き通った声。僕は声のした方に体を向けさっきの悪寒や嘔吐等も忘れその人に駆け寄った。
「臨也さん! 今日は池袋に来てたんですねお仕事ですか?」
自然と声が上擦る。朝から会えるなんて僕は何て幸福なんだ、と思った。
「うん。 ちょっと、ね。 それにしても奇遇だなぁ、 君に会えるなんてさ」
「はい。本当奇遇ですね。僕も会えるなんて思っていませんでした」
本当は嘘だ。人混みにいたのも貴方に会えるような気がして会いたくて 探していたんですよ。
「ははは、嬉しいなぁ。 帝人君に会えるなんてさ」
「…え、 ぼっ、 僕も嬉しいですっ」
嫌だな。また少し気持ち悪くなってきた。何でそういうこと言うんですか。何で一々期待させるようなことを言うんですか。知っていますか?貴方の言葉一つ、一つに有頂天な僕がいることを。知らないですよね。知ってほしくなんかないです。僕だけが知っていればいい。だけどいつか気付いて欲しい。とも思っているんですよ。こんな狡い考えだって持っているんですよ。 ねぇ 臨也さん。 貴方はこれを “滑稽”だと嘲笑いますか?
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