短編

□君のカケラ
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左肩から右足にかけて熱が奔る
薄れゆく意識の中、誰かの声を聞いた気がした


「ここは……」


俺はいつの間にか花畑にいた
だが、どこかおかしい
色とりどりの花が咲いているが、何処かぼんやりして見える


「俺…何してたんだ…?」


これだけの花が咲き乱れていると言うのに何の匂いもしない、身体もふわふわとしている
少なくとも、これが現実ではないという事は理解できる

ぼんやりする頭で記憶の糸を手繰り寄せる
覚えているのは振り下ろされる妖怪の爪、それから…


「それから…何だっけ…」


どうして妖怪と戦う事になったのか、何処で妖怪と遭遇したのかなど
意識を失う寸前の事以外は全く思い出せない


「はっ…とうとう死んじまったって事か…」


自分の手のひらを見つめ、握って、開いてみる
感覚もどこか自分のものではないような気がした


「あっけねえもんだな…」


今まで何度か死ぬ思いはしてきたが
こんなにあっさりと逝くことになるとは思わなかった


「犬夜叉…」


不意に名前を呼ばれた
振り返ると巫女が立っていた


「お前は…」


誰だったか…、ああそうだ桔梗だ
50年前に自分と憎み合い、命を落とし、死人として蘇った
そしてまた、死なせてしまった、初めて大切だと、思った女(ひと)


「桔梗…か、お前がいるって事はやっぱり…」


俺は死んだんだな…と、改めて自覚する
桔梗は何も言わず、微笑みながら手を差し出してきた


「迎えがお前なら、あの世も悪くねえかもな」


自称気味に笑ってから思い出す
前にも一度、こんな風に手を差し出された事があるような気がする

あの時は…その手を取ることは出来なかった
いや、取りたくなかったのだ


「(なんでだっけ…)」


けれども今はなんの抵抗もない
俺は差し出された桔梗の手に向かって手を伸ばした


「良いのか?」


指先が触れるか触れないかの所で桔梗が呟いた


「…え?」

「今私の手を取るのならば、何故あの時に取らなかった?」


あの時、とは先ほど思い出した『取りたくなかった』時の事だろう
あの時はたしか…そうだ、桔梗を亡くした直前の事だった
悲しくて、辛くて、どうしようもなくて、死んでしまいたかった
だけど――…


『犬夜叉―!』


遠くで、声が聞こえたんだ


「かごめ…」


そうだ、あの時はかごめが傍にいてくれた

だけど今は―――…


「あの時お前は私の手を取らなかった」

「ああ…」

「その手を躊躇わせたのは、かごめだな」

「ああ、そうだ…」


だけどもうかごめはいない
かごめの存在を思い出すと同時に、今までの記憶も呼び起こされる

2年間ずっと、待っていたこと

いないなら…、もう会えないのなら…


「かごめが居なくなったら、もうお前に残るものはないのか?」

「え…」

「…聞こえないのか?」

「?何を…言ってるんだ?」


桔梗が何を言っているのか分からない
もうどうでもいい、疲れたんだ、期待するのも待つのも
早く連れて行ってくれ
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