短編

□君のカケラ
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『犬夜叉!!』

「え?」


桔梗の手を掴もうとした時、微かだが声が聞こえた
そんなはずはない、かごめはもう居ないんだ、井戸の向こうに帰った

だから、俺の名前を呼ぶやつなんて――…


『犬夜叉!』

『犬夜叉!!』


だんだん大きくなる、この声は…


「弥勒…珊瑚…」


思い出した、村に妖怪の群れが現れたんだ
そしてその妖怪が珊瑚と弥勒のガキを狙っていて…
そこに俺が飛び込んだんだ


『ふざけるな!!お前こんな終わり方で良いのかよ!!?』


弥勒…


『死なせて堪るもんか!私はまだ何の恩も返しちゃいないんだよ!』


珊瑚…


『かごめに会うんじゃろ!?こんな所で死んでどうするんじゃー!』


七宝…


『犬夜叉、しっかりせんか!』


何だよ、楓ばばぁもいんのかよ


『犬夜叉様!』

『犬のあんちゃん!』

『犬夜叉殿!!』


つか、村の奴らまで…


『帰ってこい!!犬夜叉!』


そうだ、桔梗が死んだ時も、かごめが居なくなった時も
独りならとっくに生きる事を諦めていた

けれど、俺は今、独りじゃない
傍にいると言ってくれたかごめが居なくなっても

かごめがくれた仲間がいる
かごめが残してくれたものがある
守りたいと思えるモノが、俺にはまだ、沢山ある


「…わりぃな桔梗、俺はまだそっちへは行けねぇらしい」

「その様だな」


少しだけ笑ってそう言うと、桔梗も笑い返してくれた
辺りが暖かい光に包まれていく


「俺はお前に面倒かけてばっかりだな」

「全くだ」

「ははっ、すまねえ」

「犬夜叉」

「ん?」

「かごめが帰ってきた時、泣かせるような生き方はするなよ」

「え…」


ざあっ…と、強い風が吹いて、桔梗の姿が光に霞んでいく
待ってくれ、どういう意味だ、今のはまるで―――


「ききょっ…」


風が更に強くなり、桔梗の姿が完全に光の中に消える
それでも光はどんどん強くなって、眩しくて目が開けていられなくなる
そして光と同時に周りの声もだんだんと大きくなっていく


「犬夜叉!!」

「しっかりして下さい犬夜叉様!」


「…るせぇ、な…」


ゆっくりと目を開けると、楓ばばあの小屋にこんなに入るのかって言うぐらいの人数が俺を見下ろしていた


「犬…夜叉…」


あの弥勒が少し涙ぐんでやがる


「耳元でぎゃあぎゃあ騒ぐんじゃねぇよ…」

「なっ…あのね、あんた…」


珊瑚も、口調は強気だが今まで見たことないくらい泣きはらした顔してる


「わぁーってるよ、……悪かったな」

「犬夜叉〜うわ〜ん」


七宝の顔はもう言い表せないくらいぐちゃぐちゃだ


「犬夜叉…良かった…気がついたか」


楓ばばあは…あんまり変わんねえな、ちょっと老けたか?いや、元からだったかも
その隣には薬を持ったりんがいる


「良かったぁ…かごめ様の国の薬が効いたんですね」


どうやら、かごめが残して行った薬が俺の命を繋ぎ止めたらしい
けれど、俺がこうして生きているのは薬のおかげだけじゃないってのは分かってる


「もう…大丈夫だ…」


かごめがくれたモノがひとつひとつ繋がって、俺の命をつなぎ止める

ならば俺は生きなきゃならねぇ


『かごめが帰ってきた時』


その時がくるのを、信じて






→あとがき
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