長編

□禊ぎ(みそぎ)
2ページ/14ページ

いつからだろうか、犬夜叉を好きになったのは。
いつからだろうか、夢にまで見るようになったのは。
いつから、私はあの女(ひと)の影に怯えているのだろうか。
一体いつから、私はこんなに汚くなってしまったの―――・・・・・・?


【禊ぎ】


「はぁ・・・」

森の中、かごめは静かにため息をつく。
他の仲間は皆、眠っている。
人一倍聴覚が敏感な犬夜叉も、ぴくりとも反応せず、腕を組んで眠ったままだ。

(眠れない・・・・・・)

かごめは気晴らしに散歩にでも行こうと思い、のそのそと寝床から起き上がる。それでも、誰も反応した様子はない。

(みんな・・・疲れてるんだね。)

ここの所、ずっと歩き詰めだ。しかも、野宿ばかりでゆっくり休めないのだろう。
かごめは皆を起こさぬよう、そっと弓矢をとり、そこをあとにした。


近くに邪気はない。それはきっと、この森が清められた森だからだろう。
森の奥には泉があり、その泉の水は『聖水』と呼ばれ、邪なものや病を払う力があるのだと弥勒が言っていた。
この森の近くに村はないが、遠くの村からも聖水を求めて多くの人が訪れるらしい。
それでも、この時代だ。用心にこしたことはない。かごめは弓矢をにぎりしめ、森の奥へと歩いて行った。


最近、眠れない。・・・・・・というか、眠るのが怖くて仕方がない。
眠れば必ずと言って良いほど彼女を夢に見る。自分と同じで全く違う彼女の夢。そして自分には絶対に見せない表情(カオ)で、彼女を見る彼の夢――・・・。
壊れたビデオテープのようにその夢は毎夜毎夜繰り返される。

「桔梗・・・。」

ぽつりと彼女の名を呟いてみる。

若くしてこの世を去ってしまったひと。
犬夜叉を愛したひと。
美しいひと。
同じ魂をもつひと。
全然自分と違うひと。
絶対にかなわないひと。
犬夜叉が―――・・・・・・

そこでかごめの思考は一度、ぷつりと切れる。
これ以上はあまり言いたくない。しかし、人間とは不思議なもので、言いたくなかった続きがすぐに口をついて出る。

「犬夜叉が・・・愛しているひと。」
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ