長編

□禊ぎ(みそぎ)
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口にした瞬間、自分がどす黒い感情に呑まれていくのが分かった。

どうして私じゃないの。
どうして桔梗なの。
どうして桔梗は死してなお、犬夜叉の心にいるの。
どうして犬夜叉は私を見てくれないの。

そういった感情が全身を満たしていく。

嫌だ 嫌い 憎い いなくなってしまえば良い
犬夜叉も桔梗も――・・・

・・・でも、一番嫌で憎くて大っ嫌いなのは・・・
いなくなってしまえば良いのは・・・

「私よね・・・。」

そこで、体中にこびりついていた黒い感情は渇いてぱらぱらと剥がれ落ちて行った。
いつもそう。あの夢を見ると必ず黒い感情に呑まれていく。
そして、自分の嫌な部分、汚い部分を改めて思い知らされる。
そこで自分を包んでいた黒い感情からは開放されるが、吹っ切れることは決してない。
例えるならば火山。
噴火して汚い煙が空を汚す。
噴火が終わり、空が本来の色を取り戻しても、地上には火山灰が降り続ける。

そんな風に“火山灰”を残して黒い感情は消える。

「ああ、もう・・・」

これ以上考えても、また黒い感情に呑まれるだけだと思い、かごめは手足を広げその場に寝転がる。
目に入ったのは木々の間から見える満天の星空。素直に「美しい」と思えないのは未だ降り続ける火山灰のせいだろうか。

「そろそろ帰らなきゃ・・・みんな心配するよね・・・。」

――そうかしら?
みんなって誰?誰があんたを心配してるの?

ああ、今日は酷い。まだ夢を見てすらいないというのに、黒い感情に呑まれ、おまけに頭の中で誰かが囁いている。
何となく“誰か”の正体は分かっている。きっと、黒い感情が生み出した『自分』。
目を閉じて、その『自分』に反論する。
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