AnothersideStories
□ハート
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楽しい時間はあっという間に流れ行くように、辛かったり切なかったり、もんもんとしている時間というのは、すごく長く感じると思わないかい?
僕は感じるよ。
家でパスタを茹でるだけで、誰かを思い出す事があるんだ。
誰か、って言ってもそこには固有名詞が入るんだけど。
季節が変わる度に愛しい陰を思い出すんだ。
…格好悪いだろう?
でもこれは正しい記憶だと、純情で清潔な感情だと僕は思うんだ、どうかな。
寝起きの頭で彼女との優しいキスの感触を思い出したって、バチは当たらないだろう?
そのくらいは黙認して欲しいもんだよ。
僕は一人で頑張っているんだからね。
そもそも、彼女と別れたのはどうしてだったのだろう?と思い出してみた。
ハンドルを握り赤信号で止まって、ふと思い出し、そして僕は小さく笑う。
そうだ、僕は振られたんだった。
なんで忘れていたんだろう。
人間て本当に便利だ。
自分に都合悪い記憶は、ちょっと考えないと思い出せないように脳にインプットされる。
でも、思い出そう、僕はもう大人だし。
僕の仕事が忙しくて、寂しさを紛らわす為に彼女は他に恋人を作ったんじゃないか。
そう、僕の努力が足りなかったんじゃないか。
何でだろうね?
人間てほんとに不思議で、本当は時間なんていくらでも調整つくし、余程の事じゃない限り、逢いたい人に逢えないなんてお互いの努力が足りないだけなのに、何だかんだと人のせいにしたくなるんだ。
そうすれば楽だからね。
人生にIFはない、ってタモリが言ってたけど、これってあながち嘘じゃないって、全てが終った今だったら分かるよ。
車につけたナビがもそもそと喋る。
渋滞です。
あぁ、僕の心も渋滞気味かな。