AnothersideStories

□ハート
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遠出をするには、いつも意味がある。


次にもし誰かを好きになる時には、香水をつける習慣のない人にしようと、思う。

なんとなく、でも強く思った。
終った恋に「懐かしさ」なんて本当に必要だと思うかい?

用事のない休日の午後、飲み物が足りなくなって向かった近所の大型スーパーで、すれ違った子供連れの若い夫婦の母親の方から、鼻をくすぐる甘い、とてもいとおしい懐かしい香りがして、急に僕の世界は色を失い、「いつか」に引き戻されるなんて、サングラスの奥の目を伏せたなんて、カッコ悪いだろう?



あまりの無念さに眩暈がするよ。



何もかも都合よく、思った通りに物事が進む、なんてウマい話があると思うかい?


僕は言うよ、ありえないってね。

そんなの人間らしくないでしょ。



物事ってね、どこかを取り繕うとすればする程、別の何処かがはらはらと静かに解れていってしまうものなんだよ。

「愛」を言葉にすればする程、なんとなく嘘臭くなるみたいにね。


だから恋には終着点があるんだと思う。


辿り着く駅はそれぞれ違うんだけど、終着駅は必ず何処かにあるんだ。




恋だけじゃない、人生もそう。

冷えたビールをカートから元の売り場に戻し、中身がミネラルウォーターと煙草だけになるようにしてキャッシュカウンターに向かう。


…カッコ悪さに浸るのも、たまにはいいだろう?



僕はポケットにある財布と車のキーを指でなぞり、そのまま自宅へ戻らずに、まっすぐ駐車場に向かった。



沖縄には行けないけど、何処か走れば海には辿り着くだろう。
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