今でこそ、オフィスでのパソコン普及率は”一人一台”が当たり前という状況ですが、1984年当時の日本では、まだそうではありませんでした。84年というのは、アメリカの臨床心理学者ブロード博士が、「テクノストレス」の危険性を予言した年です。
当時、シリコンバレーでは、技術者のうつ病、自律神経失調症、アルコール依存症、薬物依存症が多発していました。ブロード博士はその原因を「テクノストレス」と分析したのです。
テクノストレスは、「人間がコンピュータ・テクノロジーに適応しようとする過程で遭遇する、様々な障害」と定義されています。
もちろん、博士の予言は当たったわけで、その後20年で、パソコンとテクノストレスはセットになって、爆発的に普及・拡大してきました。
テクノストレスには、大きく分けて二つ症状があります。
「テクノ不安症」と「テクノ依存症」です。
まず、問題になったのは「テクノ不安症」分かり易くいうと「パソコン恐怖症」です、中高年の管理職に多く、この年代には「新しい機械は苦手」という人が多いのですが、それでも会社の都合でパソコン導入となると、イヤでも取り組まざるを得ません。しかし、こういう新しい事では、若い社員に太刀打ちできない、だったらまかせてしまえばいいのですが、管理職の意地もあれば、窓際に追いやられたくないという不安もあります。
そうして、イヤイヤキーボードを叩いていると、パソコンを見るのも辛くなってしまい、やがて会社に行く事もイヤになって、夜眠れなくなるーといった神経症の症状が出てきます。これが「テクノ不安症」です。
もっとも最近では、パソコンの普及期からずいぶん時間が経過し、パソコンの使い勝手も良くなったので、この「テクノ不安症」はあまり話題にのぼらなくなりました。

代わりに問題化してきたのが「テクノ依存症」の方です。
これは「不安症」とは反対に、パソコンに精通した若い男性が陥りやすいのです。要するに、パソコンにハマってしまう症状です。
毎日、何時間もぶっ続けでパソコンの前に座り続けて、作業に没頭するようになるとどうなるでしょう。
まず、人との対話が煩わしいと感じるようになります。
パソコンは、作業(処理)を命令すれば、すぐさま実行してくれる。しかも返ってくるのは明快な数字か、Yes/Noのどちらかです。これに慣れてしまうと、人間との対話は、反応は遅いし、言い訳はするし、返答は曖昧で、これが耐えられない。イライラしてしまう。
対話が成り立たなくなり、孤立します。ますます、パソコンに没頭してしまう。時間感覚がなくなり、社会性もなくなります。
ディスプレを見続けるので、目が疲れる、ぼやける、視力が低下する、全身がだるくなる、というように、ついには体調を崩してしまいます。
今は、インターネットがあるので、パソコンにハマっても、ネットで”対話”をすることができる、という人もいるでしょう、しかし、それはそれで、今度は「ネット依存症」が問題化しています。引きこもったまま、ネットでしか他人とコミュニケーションできないという症状です。
いずれにしても、ITがこれだけ仕事・生活の中に入り込んでくると、この先、どんな症状が現れるか予測は難しいです。「携帯電話を忘れたら不安で仕方がない」等という”症状”も新しい神経症として、確立するかもしれません。

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