恋をするのならアナタがいい
愛を告げるのあらアナタがいい
抱きしめられるなら、アナタがいい……
*...
17世紀終わり、温帯気候の大きな大陸にアレジマルス国という国がありました。
アレジマルス国は別名『花の国』と呼ばれ、その名の通りその国には様々な花が咲きます。
アレジマルス国の初代国王アレジマルス・ウォーカーは各地に散らばった帝国の戦乱に終止符をうち、一つにまとめあげ平和をもたらしました。
後に、アレジマルス国は大陸いちの大きな国になり、1世紀もの間あらそい事もなく、静かで穏やかな時間が流れます。
それは、カナン・ウォーカー国王の時代になっても平和は続くのでした。
小さな丘、けれど結構な傾斜な坂にため息をこぼした後、手にさげていたカゴを地面に置いた。
ひゅうっと風がふいて彼女のやわらかい栗色の髪を踊らせる。
後れ毛を耳にかけ直す指はほそく、肌は真珠色。
足元に目をむけるとヘーゼル(淡褐色)の瞳に映るのは白い花。
二、三度なびいた素朴で薄い水色のドレスを綺麗におさえて二輪草畑に腰をおろした。
一輪手にとってみると軟茎のためか、ふにゃりと風の方向に傾く儚さに、どこか自分を重ねてしまった。
わたしが今ここにいる理由は今日で成人になる幼なじみの祝い事のための花を贈るため。
わたしの幼なじみは高貴な方で、こんな庶民な野良の花なんて贈れない。
けれど飾るだけならば許してくれるはず……。
花びらを撫でながら切なく微笑んだ。
「フィオナ様、どちらにおられたんですか!? 旦那様も探しておいででしたのよ!」
屋敷に戻るとバタバタとあわたてた婆(ば)あやが勢いよく近寄ってきた。
婆あやは幼いころから、フィオナの世話係として仕えている。
一度しゃべりだすとなかなか長い、俗に言う口うるさいおばさんというか、何と言うか…。
つり目で怖い印象をうけるけれど、その目がやさしく微笑むのを知っている。
婆あやは私のことを我が子のように心配してくれて、義理母のような存在であった。
「あら、そうだったの?
ごめんなさい、ばあや。
花を摘んでて……」
「まぁまぁ、こんなに手を汚されて…。 フィオナ様は本当に変わったお方で。
しかしながら、なぜ?」
「今日の祝いの席に飾りたいと思って」
「……フィオナ様、今宵は皇太子さまの祝杯に御座います。
わたくし達より更に身分の高い皇族の方々もお出でになられるのですよ?
残念ながら…このような庶民の花は雑草しか見えませぬ」
婆あやは私の手を握りながら目を覗きこみ申し訳なさそうにする。
婆あやの言っていることはわかってるわ。
ただ彼との思い出の花だから…、見せたかったのよ。
最初から無理かしら、とは感づいてはいたが、もしやと思っての試みも無駄だったようだ。