「そうですわ!
フィオナ様が以前話してくださったローズマリーが届いてますの、何でも旦那様が取り寄せてくださったとか。
それを贈りまししょう!
フィオナ様がつんでらした花はせっかくですので綺麗な花瓶に活(い)けて部屋に飾らせて頂きますわ」
悲しそうに眉をさげたフィオナに婆あやは機嫌をそこねないよう慌て提案した。
必死の婆あやに嬉しくも、そうね、と苦笑した。
それからはあまり時間がない!と、婆あやは急いでフィオナに着替えと化粧をほどこした。
したといっても、本人の希望よりほんのり薄くしただけ。
本当は人が集まる席など、控えめなフィオナはあまり好きではなかった。
わたしフィオナ・ベルは父フロム・ベルの長女として生まれた。
父はそこそこの伯爵でキャルバレルと言う王都から少しはなれた小さな領地を治めている。
そこ、キャルバレル領はラコン山の自然の恵みに溢れていて空気の綺麗なところだ。
治安は悪くないが交通手段に難があり貿易には不向きで、伯爵の中では権力は小さいほう。
伯爵にしては乏しい位で微妙だけれど、生活には何の不便はないし満足していると私は思う。
また父は身分に似合わず、殿下と親しみ深い。
なんとも父が幼いころ祖父は皇家の騎士として仕えていたらしい。
そんな祖父の息子である父は小さい頃から剣術や礼儀を教えこまれた。
そうゆう訳でもあって、歳ちかいカナン皇子――現在国王――の遊び相手、かつ護衛役を務めたこともあり関わりがあったようだ。
このキャルバレル領を治めてみないかと提案してきたのもカナン国王だったとか……。
伯爵の娘とならば必然的に舞踏会やら何やらに小さいころから連れていかれたものだった。
「フィー心配したぞ、準備はいいか?」
「はい、お父様……ごめんなさい」
「馬車の準備はすでにできております」
手際よく声をかけたのはお父様の秘書のクリスチャン。
父と年もあまりかわらず、婆あや同様、彼もずいぶん長くここに仕えている。
太陽が沈みかける前に、また慣れない宮殿へ向かうのだ。