いつだって、俺は臆病で、何も言えなかった。
何も言えず、そのまま時は過ぎ去り、

いつしかお前は、俺の隣にいなくなっていた。



『君のとなり・僕のとなり』



「冬獅郎っ!」
ばん!と背中をいきなりたたかれ挨拶をされ少し俺は驚く。
まぁ相手は声だけでわかるが。
「・・・黒崎、なんだ。」
「んな怖ぇ顔すんなよ、そこまで強くたたいてねぇだろ。」
自分ではそんな気は一切なかったのだがよほど目つきが悪かったのか、怖い顔をしてたらしい。
「うるせぇっ。んで何の用だって聞いてんだ。」
「あ、あぁ。」
思い出したように黒崎はうなづく。
「実は、ちょっと相談があるんだけど・・・。」
「相談?」
言いにくそうに黒崎は周りをキョロキョロ見る。
「・・・・・・隊舎で聞いてやる。」
そのほうが落ち着いて話せそうだ。
二人っきりになれるしな。
「あぁ!頼む!」
よっぽど言いにくいのか、心底感謝してそうに黒崎はそう言った。
・・・・・なんとなく、何の相談かわかった。


――で、十番隊隊舎・執務室。
思ったとおり、松本はサボりでいなかった。
あの野郎、まだ仕事が全然残ってるじゃねぇか・・・!!
いつものことだが今日のところは見逃しとくがな。
黒崎にお茶を出すと「悪いな。」と軽く会釈する。全く、口は悪いのに礼儀はある奴だ。
「で、結局相談ってのはなんだ?」
「あぁ、えっと、その・・・。」
赤らむ黒崎にほぼ先ほどの予感は的中してそうだ。
「ごめん!忙しいだろうけど・・・、冬獅郎買い物つきあってくれ!!」
両手をパン!とあわせて頭を下げる黒崎をみて少し驚く。
・・・・買い物?
「何を買うんだ?」
「・・・・えっと、決めてねぇんだけど、あいつへのプレゼント・・・。」

―――――――――やっぱりか。

と、率直に俺は思った。
黒崎の言う「あいつ」とは「阿散井恋次」のことだ。
つい最近付き合いだしたとかなんとか・・・。正直あまりこのことについて語りたくはないんだがな。
今までずっと黒崎を見てきた俺は何も言えず結局阿散井にとられてしまった。
「・・・・・阿散井か。」
ぼそりといった俺の言葉に黒崎はボッと顔を染める。わかりやすすぎだろうが。
「な、ばっ、わざわざ名前出してねーんだから察してくれよ!!」
「あぁ、悪かったな、はいはい。」
反省の色を少しも見せない俺に対して黒崎はう〜・・・とどこか可愛げのある顔をする。
阿散井の奴は幸せもんだな、と正直思ってしまう。
「でもそれなら朽木兄妹のほうがいいんじゃねーか?」
阿散井と幼馴染の朽木ルキア、阿散井の上司の朽木白哉。
どう考えたってあの二人の方がいいような気がする。そうすりゃ俺だってこんな相談受けずにすんだのに。
「ルキアはどうせ最終的に自分の好きなものに走っちまうし、白哉は堅すぎる気がする。それに一応二人とも貴族だし、それらしい集まりがあるとか言ってたような気がするんだ。」
「・・・・そうか。」
確かにまぁ朽木兄妹は貴族だし、なによりセンスが危ないような気がする。
妹のほうの絵は前に浮竹に見せてもらったことがある。
下手なのか上手・・・・くはないが可愛らしいのかよくわからないセンスな絵だったような気がする。
兄のほうは「ワカメ大使」がいい例だと思う。
「でも俺なんかでいいのか?あまりあいつの好みとかしらねぇぞ?」
「いいんだ、冬獅郎だったら。」

“冬獅郎だったら”

信頼のひとつなのか。喜んでいいのだろうか。
それでもお前は手に入れられないのにな。

「わかった。つきあってやる。」
「本当かっありがとなっ!」
極上の笑顔をそんな簡単に出していいものなのか。
あまり阿散井はいい顔しなさそうだな。俺がそうだから。
「あ、それと、もうひとつ・・・。」
「なんだよ、まだあるのか?」
「買い物はさ、現世で・・・ってのは無理か?」
「現世?」
きょとんとする俺に黒崎はうなづく。
てっきり、瀞霊廷内かと思っていたのに。
「冬獅郎に頼んだのはこういうの人にしゃべらないのと、あと、最近・・・なんかイライラしてるって乱菊さんから聞いてさ。」
「松本がか?」
イライラしてたのか?俺は?
「そう、で、現世で買い物でもすれば少しはストレスも解消できんじゃねぇかって・・・思って。」

ストレス、イライラしてる、怖い顔に・・・って一体何なんだ。
そんなに俺はピリピリしてる奴なのか?
なんだか本当にむかついてきた。

「別にイライラしてねぇし、ストレスなんかもたまってねぇよ!」
ちょっと、きつい言い方になったかな、と言った直後思ったが言葉は消されない。
「そうか?でももうイラついてんじゃん。」
「イラついてねぇっ!」
あぁもうなんなんだよ。
俺が何をしたというんだ。
「・・・・・・・そう。ならいいんだけどさ。」
急に黒崎の声が落ち着いて我に返った。もしかして、傷つけた・・・?
「あ、黒崎・・・」
「んじゃ、俺もう現世帰るから。暇な日がわかったら連絡してくれよ。」
そうして逃げるように黒崎はさっさと部屋を出た。
しまった、やっぱりイライラしていたのかもしれねぇ俺。
「たーいちょ。」
「・・・・・・・・・松本か。」
「ダメですよ、あんな言い方。」
先ほどの会話を全て聞いていたのか。予想はしていたがやっぱむかつく。松本今月減給だ。
「うっせぇ。」
「一護は隊長を心配してるのに。」
「本命心配しときゃいいんじゃねぇの。」
なんかもう半分ヤケになってきた。
後ろではぁ〜と、松本のため息が聞こえる。

「――――日番谷隊長、先に申し上げておきます。部下ながら暴行・暴言お許しください。」
「は?」

目を見開いた俺に容赦のない松本のビンタがとんできた。
執務室に俺をなぐる音が響く。
「な、何しやがるまつも・・・」
「あなたはここ最近何をしてんですか!一護に告白をしなかったのはあなたでしょう!前に進もうとしなかったあなたには当然の結果がきただけです!」
びしぃ!とはっきりした大きな声で松本は俺に指を指す。
「自分で決めた事に対して他の人に当たらないでください!」
ひととおり言い終わりふう!と息を吐く。
「気持ちだけでも伝えればいいじゃないですか・・・。」
その目は子供を見るような目。
餓鬼か、俺は。

いや、十分餓鬼だな。部下に説教されるんじゃ全然餓鬼だ。

「・・・・悪かったな、松本。」
「いえ。」

もう少し、俺に勇気があったら未来は変わっていただろうか。
もし、また俺にチャンスが訪れたらその時は言ってみようか。

「出かけてくる。」
「いってらっさい。」

今はただ、お前の幸せを見届けるから。
まだお前は、俺を信頼してくれるか?

いつかこの言葉を言うときが訪れるまで、胸にしまって。



「黒崎っ」




俺の隣に、お前はいない。




***


恋一←日な小説でした。
正直私、隊長が恋次に負けるとかないと思うのですが・・・。いいのかおい!
日番谷隊長片思い小説書いたのはいいけど乱菊さんが説教とか。
ちなみにこの小説ある歌をテーマにしてるんだけど、わかるかな?((わかるわけない。
でもやっぱ片思いは素敵ですねっ!両想いも好きだけど片想いとかいいですって。

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