短編小説

□対峙と狂乱
3ページ/5ページ

「……ハァ……ハァッ……くそが……っ
(短時間に命を削り過ぎたせいか……)」


「………ユウ…」


「恭弥、か……?」


片膝を付いていた目の前に立っていたのはさっき、またあとで、と言って別れた恭弥


「その様子じゃ、倒したのか……?」


「…………」


「恭弥……?」


「逃げて…っ…」


風を切る音と金属音が鳴るのはほぼ同時だった
俺のボロボロの六幻と交じっているのは間違いなく、恭弥の烈火で、俺を狙っているのは恭弥で……


「恭、弥……どうしたんだよ」


「……ユウが生きている限りぼくは……」


「!!」


その言葉は紛れもなく、俺の罪であり咎である、あいつの……アルマの言葉で、恭弥が紡ぐはずのない言葉だった


「あーあ、甘党のやつ、ボロボロじゃねぇかよォ」


「テメェ、は……!」


「面白いことなってんじゃねェ?どうよ、好きなやつに刺される気分ってやつは」


「テメェの仕業か……!恭弥を、戻せ!!」


「嫌だなァ、勘違いすんなよォ、神田ユウ
俺は恭弥の《自我》と《自由》を剥奪しただけだぜェ?」


「ちっ……めんどくせぇことしやがって……!
恭弥……戻ってこい」


「何言っても無駄だと思うけどなァ…」


「無駄かどうかは…やらなきゃ分からねェよ……!」


六幻を振るえば烈火と交じる。意識が朦朧としてきやがった……っ


ポタッ ポタッと音を立てながら滴るのは恭弥の脇腹から見える包帯を染めている赤黒い血
普段とは違う赤い瞳が俺の脳裏には最悪の考えを浮かばせた


「!お、い……まさか……」


「気づいたァ?恭弥、俺と勝負している時に第四制御まで解除したんだァ」


烈火の第四制御……それは業火残響。俺の三幻式と同じように自身の命を吸う代わりに高めるというもので……
これ以上戦えば間違いなく恭弥の体は限界を迎えてしまうことを示していた


「ちっ……!」


「さぁ、どーするよォ。つっても俺はこれから高みの見物させてもらうけどなァ
ここもそう長くないみたいだしよォ」


カルテ・フォーロの姿が揺らぎ、気配が消える
その言葉通り、この部屋の崩壊が始まっていた


「ますますチンタラしてられねェな……」


こう考えている間にも恭弥の体からは血が流れ出す
だったら、これしかねェか……
恭弥の刃を受けて、間合いを詰めてから思い切り抱き締めてやる


「……恭弥……俺はいつでもお前と一緒にいる」


「…………」


恭弥はいつでも独りになるのを怖がっていたからな……今なら、このままでもいいかも、な……


「恭弥の好きな寿司食って……ジェリーの蕎麦を食って、森に行って手合わせして…それから一緒に風呂に入って、疲れたっつって、寝て…
んで、また朝になったら蕎麦食って、コムイの奴からの任務に向かったりして……、いつも無茶するお前を止めて……」


「………、ぁ……」


「俺は……あの人よりも、無茶するお前の為に死ぬわけにはいかねェんだよ……!
だから、戻ってこい…恭弥ぁッ!!」


「……っ、ユウ……っ!ぁ、ぁぁあぁ……っ!ユウ……!嫌だ…!死なないで……死なないでよぉ……!!」


目が徐々に光を取り戻して、涙を溢れさせている恭弥に柄じゃないが、安堵した


「戻ってくるのが、遅ェんだよ……泣き虫」


「ユウ……っ」


「俺は、死なねェよ……
俺が死んだらお前の無茶を誰が止めんだ…」


「全く、だよ……っ、そんなことするの、ユウだけなのに…!」


「当たり前だ……他の奴等にさせて、たまるかよ……っ
いい加減、泣き止め…テメェの泣き顔って嫌いなんだ、よ……」


「……う、ん……っ
ごめん、ごめん……僕、ユウを…刺しちゃ……っ」


烈火の刺さっていた部分に恭弥が手を翳すと徐々に治っていく
今の恭弥に何を言っても無駄だろうから、今回は敢えて何も言わないでおくか……


「…覚えてるんだな……」


「体が勝手に動いた……、カルテ・フォーロが、本当の能力は剥奪だって言って……っ、気づいたらユウに攻撃してた……」


「……そうか
とにかくここから脱出……」


「奴を…許すな…」




.
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ