infinite

□Home, Sweetie
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昼までに予定していた整備のノルマを終えて、ようやく休憩。
長めの髪をゴムでくくり直して、額に巻いていたタオルを首にかける。
職場の仲間たちが座っているところへ行って、俺も座った。

俺が弁当箱を開けると、周りからは感嘆の溜め息……ならぬ唸り声が一斉に響いた。
「うわぁ、すげぇ豪華だ!」
「こ、これなんすかっ。一口だけでいいんで、食わせて下さいっ」
「くーっ、愛妻弁当羨ましいッスよ。よっ、この色男!」
野太い声で、ガタイのいい男たちが俺の弁当箱を覗き込みながら身悶える。
これから昼飯だっていうのに、気持ち悪い光景だ。

それだけでもうんざりしているのに、俺は目の前の弁当箱を見て更にげんなりしてしまった。
さっき、愛妻弁当が羨ましいとか言ったやつがいたな。
この卵焼きを食わせてやりたい。
「おい、テツ」
「ふあい」
テツは俺に呼ばれて振り向いた。口の中には握り飯が詰まっている。
もぐもぐしながら返事をするが、俺が愛妻弁当とやらの卵焼きを箸で摘んで差し出すと目をキラキラさせた。

慌てて飯を飲み込んで、口を間抜けに開ける。
その中に卵焼きをひょいと放り込んだ。
「ほらよ」
テツは嬉しそうにむぐむぐと口を動かしているもそのうちぴたりと動きを止め、
「……ん?」
眉をしかめてごくりと口の中のものを飲み込んだ。微妙な表情をしている。
「どうだ、味は」
問いかけてやると、一瞬戸惑った後。
「う、美味い……ッス」
「嘘はつかなくていい」
この卵焼きは、栄養をつけるためと色々具材が入れられているのはいいのだが、人参の大きさがバラバラ過ぎて生焼けだったり焦げていたりと微妙だ。
更に味付けも、どの調味料をどんな分量で使ったのか分からない、なんとも言いがたい味。卵焼きというよりもはや創作料理だ。

「……美味いとは、言えないッスね」
テツは迷った挙句、眉尻を下げて申し訳なさそうに呟いた。
「おう」
劇的に不味いという訳ではないのだが、お世辞にも美味しいといえない味であることは分かっていた。
何せ、ここ一週間俺はずっとこの弁当を持たされているのだから。
 
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