夢書き

□吐いた嘘がひとつだけあります
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私はW7の裏町の小さな本屋の店員で、
カクさんは造船工場の職人さん。
仕事が出来て、強くて、かっこよくて、優しい。
カクさんはかなりモテる。
カクさんはW7の人気者。
そんなカクさんと私は、恐れ多くも、いわゆる・・・お、お付き合いをさせて頂いております。
冒頭でも言ったように、私はただのしがない本屋の店員で、
顔がいいわけでも、性格がいいというわけでもありません。
至って十人並みの平凡な人種です。もしかすると、それ以下にもなりえます。
そんな私が何故カクさんとお付き合いさせて貰ってるのか今でも不思議でたまりません。

告白された時は、本当に吃驚しましたよ。
だって、カクさんなんですもん。
ガレーラの職長さんですよ?
皆の憧れですよ?
もちろん、私も憧れてました。
カクさんが屋根を使って移動している所をたまに見れるだけで幸せだったんです。
もっと近くで見たい!と思ったことは何度かありましたよ?
私に度胸や勇気があれば、会いに行ったでしょうね。
でも無理なんですよ。
私は、自他共に認める『臆病者』なんですから。
ちょっとした事にも直ぐにビクッと反応してしまうんです。
だから、そんなこと、出来るわけありません。
カクさんの近くに行って、おしゃべりできる女の子達はいいなーといつも遠目に見ていました。


でも、それも、もう2年も前に事となりました。
覚えてますか?カクさん。
今日で、丁度2年目なんですよ。
貴方から告白された日の事は、いまでもよく覚えています。
本当に突然でしたね。
あの日は確か、雨が降ってましたね。
朝から晩まで、シトシトと降っているものですから、客足は全く無く、早々に閉店して、
いざ帰ろうとした時に、貴方は現れました。
雨が降っているにも拘らず、貴方は傘も差さずずぶ濡れで、私と目が合うと、大きな目を更に大きくし、顔を赤くしました。
おどおどしながらも熱でもあるのかと心配した私に、貴方は一言。

「好きじゃ」

と言って走り去ってしまいました。
あの後大変だったんですよ?
まだお店に残っていた店長や店員からたくさん冷やかされたんですからね。
私はその時場違いにも「こういうのを言い逃げって言うんだろうな・・・」って思っていました。
現実逃避、とも言いますね。脳内処理が追いついてなかったんですよ。

次の日は嵐のような日でした。
店長や他の店員からは質問攻めですし、
本屋に来る人来る人、何処から聞きつけたのか口々に「おめでとう」とか「よかったね」って言ってくるんですから。
よく本を買いに来る酒屋のブルーノさんにだってからかわれたんですよ!
「へへ、よかったじゃないか。ずっと見てたもんなぁ」って。
顔から火が出るかと思うくらい恥ずかしかったです・・・。

その日の夕方でしたね、カクさんが来たのは。
昨日よりは落ち着いてて、
でも少し頬が赤かった。
カクさんはその場にいた多くの人にからかわれて、少しむすっとした顔をして、
でも、私を見つけると、ちょっと困ったように笑った。
さっきまでいた人たちは、いつの間にかいなくなってて、
小さな本屋には、私とカクさんの2人になっていた。
私は、カクさんの顔を見れずに俯いていた。
多分、顔は真っ赤だったのだろう。体が、ひどく熱かった。
「えっと・・・なんじゃ、あ〜・・・」
カクさんの声に、ピクリと体が震える。
別に、寒いわけでも怖いわけでもないのに、体の震えが止まらない。
どうしよう・・・!止まれ、止まれ・・・!!
私が怯えているように見えたのか、カクさんは申し訳なさそうに言う。
「すまんの・・・。怯えさせるつもりは無かったんじゃが」
それきり、どちらも何も言わず、黙ってしまった。
本に囲まれた空間に、重い沈黙が落ちる。

「あの・・・」
意外にも、沈黙を破ったのは私だった。
情けなく震える、聞き取りにくい小さな声だが、カクさんにはちゃんと聞こえていたようで、
「ん?」と答えてくれた。
声のトーンがいつものカクさんのもので、
私は、それに少し安心したのか、なんとかカクさんを見ることに成功した。
「風邪とか・・・大丈夫でしたか?」
「風邪?」
「あの・・・昨日の雨で」
「ああ、それなら大丈夫じゃ!わしは体は丈夫に出来ておるからな」
カクさんは、ニッと笑った。
私もつられて少し笑った。
震えは、いつの間にか止まっていた。







ねえ、カクさん。
この2年間いろんな事がありましたね。
貴方が「直らんか」と言っていたこの敬語も、さん付けも、結局直りませんでしたよ。
もうこれは癖みたいなものです。諦めてください。
お祭りにも一緒に行きましたね。
あの時買ってくれたおもちゃの指輪は、まだ大事に持ってますよ。
「いつかちゃんとした物を贈るからの」
って、左手の薬指に嵌めてくれましたよね。
思わず泣いちゃってごめんなさい。
すごく嬉しかったんです。
公園にも、よくデートに行きましたね。
今もたくさん咲いてる綺麗な花が、アクア・ラグナで流されてしまうのが残念です。
私の料理を、おいしいって食べてくれた。
誕生日も2人で祝った。
たくさん話をして、笑って、泣いて、怒って、悲しんで。




あ、そうそう。

私ね、カクさん。
この2年で、貴方の癖も分かるようになりましたよ。
カクさん、嘘つくときとか、何かを我慢するときって、ずっと笑ってるんですよね。
私、カクさんの笑顔好きですけど、その笑顔は嫌いです。













「おぬしが嫌いじゃ。知らんかったじゃろ。わしはおぬしがずーっと嫌いじゃった。泣き虫で、弱くて、自分をいつも下にみとる。お前さんを見とるとな、イライラすんるじゃ。例え任務といえど、おぬしを選んだのは間違いじゃった。やっと終わると思うと清々するわい」


だから、今のカクさんは嫌いです。
今の、カクさんの笑顔は、大嫌いです。




【吐いた嘘がひとつだけあります】
(好きじゃ。大好きじゃ。泣き虫なところも、弱いところも。お前さんの全部が大好きじゃ。全部愛おしくてたまらん。任務を理由にするのはズルイと思う。じゃが、連れて行くわけにはいかんのじゃ。・・・一目惚れだったといったらお前さんはどんな顔をするかのう。お前さんが、ずっとわしを見とった事、知っとるよ。わしもずっと見とったからの。気付いたら目で追っとったんじゃ。仕方なかろう?・・・大好きじゃ。大好きじゃ。大好きじゃ・・・ごめんな。)



「きりんさんと一緒」さまに提出させていただきました!

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