己を求む温もりは

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厳かな雰囲気を醸し出す隊首会。
あたしは僅かに身体を強張らせる。
隊長格の霊圧に痺れるような感覚を覚えた。
隊長ったら、こんな中でいつも平然としてたのね……末恐ろしい人。
あたしは笑ったつもりだったけど多分顔が引き攣っただけね……。
膝をついた床が冷たい。
もう十二月。
隊長の誕生日が来る……。
"隊長"……その響きに顔が歪んだ。
逢いたいです、隊長……。
砕蜂隊長の声が消え室内は静まり返った。
頭を垂れ総隊長の判断を仰ぐ。

「十番隊には、蟄居を申しつける。場合によっては、廃絶を覚悟しておけ」

「十番隊そのものが取り潰しになるということですか!?責任なら、すべて副隊長のわたしに……!」

「副隊長の命一つで責任がとれる事態と思うか!分際をわきまえよ」

あたしは深く俯いた。
あたしの命を懸けても到底足りない失態。
王印が大切なものだということは分かっている。
処罰も計り知れないくらい重いものだと思っていた。
けれど……。
隊長……あたしの命一つではあなたの十番隊は護れないみたいです。
副隊長のくせに何もできないあたし。
そもそもおかしな話だったのだ。
王印の護衛任務は重要なものだ。
それを十番隊だけでなんて……。
初めは八、十、十三番隊の合同だった。
けれど前日に京楽隊長は酔い潰れて、当日は浮竹隊長が吐血して……。
結局、十番隊のみとなってしまった。
総隊長の鳴らした杖の音で隊首会は終わりを告げる。
隊長達は次々とあたしの横を通り過ぎて行く。
あたしはただ床を見つめた。
話し掛けられないように壁を作る。
慰めの言葉など、謝罪の言葉など聞きたくはなかった。
隊長を卑下する言葉はもっと聞きたくなかった。
いつか隊長と交わした会話を思い出す。

「松本、少し出てくる」

「またですかぁ?みーんな隊長に仕事押し付けるんですから」

「お前もな……仕方ねぇさ。隊長ん中じゃ新入りだからな」

「むぅー。隊長が一番頑張ってるのに……あたし、文句言って来ます!」

「おいおい、どこに行くつもりだ?」

「もちろん、総隊長のとこですよ!」

隊長は珍しく笑いながら擦れ違うあたしの手首を掴んだ。

「行かせてください」

「駄目だ。サボろうとすんな」

「なっ!真面目に言ってんですけど」

「分かってるよ。でもな……」

あたしの手首を離し扉へと向かいながら隊長は静かに言った。

「本当のことなんて、理解して欲しい奴に理解してもらえればそれでいい」

「え?」

「な、松本」

少し振り返ってそんなこと言うからあたしは嬉しくて……。

「もちろん、分かってますよ!あたしは副隊長なんですから」

あたしは顔を上げた。
そうよ、あたしは副隊長。
日番谷隊長の副隊長よ。
信じてます、隊長……。
あなたの本当を知っているから。
幼なじみを、部下を大切にするあなたが本当。
他の誰が信じなくてもあたしはあなたを待っています。
絶対に帰って来てくれるって……。
だから、あなたの帰って来るべき場所を消させはしない。
護ってみせます、あなたの愛する十番隊を。
隊士の喜びに頬を緩ませるあなただから。
あなたが帰って来て笑える場所を……。
立ち上がると床につけていた膝が少し痛んだ。
それでもあたしは扉へと向かう。
あなたの幻影を追い掛けるように。
足を早めればあなたの背中に追いつけるかしら?
こんなにあの怒声が聴きたいと思ったのは初めて。
あたしは笑みを零した。
隊長の声が聞こえた気がしたから。

「松本!!てめぇ、いつまでサボってる気だ!?」

怒鳴り散らすくせに結局はあたしに甘いあなた。
そんなあなたに甘えていたのかもしれないわね。
隊長が戻って来たら一日くらいは仕事して、一日中隊長と一緒に過ごそう。
ひどく遠い未来を思い描いているみたいで、笑ってるのに涙が出た。

「ギンがいなくなった時は泣かなかったなぁ……」

空を見上げれば曇り空。
隊長の氷龍を探してみるけれどいるはずもなく。
この感傷的な気分は何だろう……。
"似合わない"と思う。
それでもいつも一緒にいるはずの隊長がいないのはやっぱりキツイ。
心のどこかに大きな穴が空いたような虚無感。
初めて感じるその大きさに目を閉じた。
耐えるように、受け入れるように。
あたしを動かすのは隊長との記憶だけ。
隊長の想いがあたしを動かす。
絶望に押し潰されそうな心を引っ張ってくれる。
その方向へただ進めばあなたに逢えるだろうか。
あなたの傍に辿り着けるだろうか。
顔を上げれば、そこには十番隊舎。
やっぱり……。
隊長の帰ってくる場所はここなのね。
それならば待っていよう。
あなたが再びこの門をくぐるまで。
笑って迎えられるように……。
あたしは十番隊舎の門を静かにくぐり抜けた。

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