漆黒
□引かれた一線
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雛森が倒れたらしい。
藍染が居なくなった穴を埋めるために頑張っていたが、ついにガタが来たのだろう。
俺は気になってはいたが、どうしても雛森を訪ねる勇気が持てなかった。
引き受けていた五番隊の書類を持って五番隊舎に向かう。
俺が隊舎へ足を踏み入れると五番隊の三席が歩いて来るのが見えた。
「日番谷隊長、いつもありがとうございます。助かります」
ペコっと頭を下げる三席の疲れた様子に俺は表情を険しくする。
「いい。気にするな。お前一人に負担をかけるよりマシだ」
そう言って書類を差し出すと三席は小さく笑った。
「本当にありがとうございます」
踵を返した俺を引き止める。
「日番谷隊長!あの……」
俺が目線だけ寄越すと、恐縮しながら「雛森副隊長のお見舞いに行ってあげて下さいませんか?」と言った。
俺は少し目を見開き、次の言葉を待つ。
「最近みなさん、お忙しいのか副隊長のお見舞いに来る方が居ないようで……。だからと言って一般の隊士がお部屋を訪ねるのも気が引けて」
それはそうだろう。
雛森と仲の良い副隊長たちは決戦に向けて、修行に励んでいるのだから。
俺は必死な三席を振り切ることができずに頷いた。
三席は、ぱあっと笑顔を浮かべる。
「よろしくお願いします!」
もう一度礼をし、奥へと走って行った。
俺は自分の甘さに後悔しながら、雛森の自室へ向かう。
襖の前まで来て、少しためらう。
「日番谷くん。来てくれたんだ」
声が聞こえて俺は襖を引く。
「まぁ……な……」
「嬉しいなぁ、寂しかったんだぁ」
笑う彼女はやっぱり俺の心を温めてくれる存在で……。
温まった心の片隅に今までにはなかったはずの恐怖を感じて、俺は軽く目を閉じた。
「思ったより元気そうだな」
「えへへ、日番谷くんが来てくれたからかも」
そう言って笑う雛森に、さっきよりも大きくなった恐怖を悟られまいと背を向ける。
「桃、買って来るからちょっと待ってろ」
「ほんと!?日番谷くんって昔から私が体調崩すと買って来てくれるよねっ」
そう言った雛森の表情は本当に嬉しそうな笑顔で……。
俺は小さく笑うと、部屋を出た。
「藍染隊長を…………殺すの……?」
あの時の質問に答えられなかった俺は今、恐怖している。
またあの質問をされるんじゃないかと……。
俺の知ってる雛森はそんなこと言わない。
俺が困るって分かってるはずだから。
アイツは優しい奴だから。
でも……。
アイツの笑顔がなぜか怖くて……。
よく熟れた桃を吟味しながら想う。
この桃を差し出せば、昔のように笑ってくれるだろうか?
end...
桃に桃を……。ややこしいですね。あの台詞に冬獅郎はかなり傷付いたと思うんですけど……。
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