頂を目指す二ノ姫

□切原赤也!!
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ランキング戦が終わった後の日曜日。
桜はいつものようにマネージャー業を終わらせ、コーチをするべく手塚の傍に歩み寄った。手塚は菊丸と桃城に声をかけていた。

「越前は来てないのか?」
『何?リョーマ来てないの?ってそういえば姿を見てなかったわ』

首を振る二人の反応を眉間のしわをいつもより濃くして受けた手塚に桜は声をかけた。手塚の声はその表情に相応しい低い声だった。

「ああ。無断で遅刻か…」
『…寝坊したわね、きっと。後で走らせましょう』

桜の静かなる怒りを見て、菊丸と桃城はそそくさと退散した。手塚は幼馴染みなのもあってかこの程度のことなら平気なようで平然としている。

「そうだな。それより今日はどうするんだ?」
『そうね。この間からやっている練習の成長度が私の予測と同じかどうかチェックして、その後考えてきた個人の特別メニューをやらせるわ。どう?』
「わかった。頼む」

桜は満面の笑みで頷いた。





校門前では、くせっ毛の少年が携帯で話をしていた。

「そうです。寝すごして知らない学校に着いてたんっスよ。ここどこかわかんなくって。え?柿ノ木中との今日の練習試合?わかってますよ先生そんなどならなくても。おかげでせっかくの日曜の朝を…」

少年は電話の相手に謝りながら周りを見渡した。そしてその目に"私立青春学園中等部"の文字が飛び込んできて嬉しそうな声を上げた。

「――おっ、めちゃめちゃかいてあるじゃん!もしもし先生、場所わかりまし…あれ?切れてんじゃねぇよ」

耳障りな電子音に悪態をついて携帯をしまい鞄を掴むと、少年は鼻を擦り上げて中に入って行った。

「青学……か。"あの人"がいるところじゃん」





その少年は敷地内に入り込むとテニスコートまで一直線にやって来た。手塚の隣に立ってメモを取っていた桜は、視界の隅に入って来た少年に思わず声を上げそうになった。

『(なんでここにいるのよ!)』

少年はそんな桜には気付きもせず河村や不二が打っているコートに近づき首を巡らせた。

「青だ青っ。ブルー!!」
「赤!!」
「へえ、おもしろい練習してんじゃん。ま、どうでもいーや。手塚さんとあの人は…っと」

学ランの青学とは違い、ブレザーを着た少年は目につきやすい。大石と乾は見慣れない少年に声をかけた。

「―――キミは?うちの生徒じゃないようだけど…」
「うおっ。もう見つかった!バレちゃしょうがねぇ。

立海大付属中2年エース

うわさの切原赤也って俺の事っス」

名乗った少年、切原赤也に大石は近くにいる乾にさえ分からない程度に雰囲気を変えた。それほど彼が名乗った中学は聞き捨てならないものがあったのだ。

「……立海中。神奈川代表が何の用かな?」

対する切原は飄々としている。

「ウイッス!ちょっとばかしスパイに…」
「スパイだと?」
「荒井どうした?」

切原の発言を聞き捨てならないと荒井は目つきを鋭くさせた。一方切原は手塚と桜を見つけ、目を点にする大石を置いて嬉しそうに話しかけた。

「おっ。見つけた桜さん!!それにあんた手塚さんだろ?ウチの先輩達も一目おいてる」
『…赤也。あなた何しに来たの』

手塚をあんた呼ばわりした切原に桜は呆れた。この軽口と自由奔放さのせいで彼はいつも少々大人過ぎる彼に雷を落とされているのだが、全く学習してはいないようだ。そもそも今回の訪問もきっと彼の預かり知らぬことなのだろう。帰った時怒られることは目に見えている。切原は桜のそんな心情などお構いなしになお軽口をたたく。

「やだなぁ桜さん。スパイって言ったじゃないっスか。ま、半分は桜さんに会いに来たんスけどね。つーか相変わらずきれいっスねぇ。先輩達も会いたがってたからきっと羨ましがるだろーなぁ」
『あなたね……』
「「「(なんだアイツ!!!)」」」
「(うおっ、視線が痛え)」

ニコニコ笑いながら桜を見る切原は内心己に向けられる敵意に苦笑いした。それもこれも桜のせいなのだが本人は気付いていない。切原の行動にこめかみを押さえているだけだ。

『(ああ。面倒なことにならないといいけど)』


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