頂を目指す二ノ姫

□越前リョーマとテニスの女王様
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『…こっちの方に向かったわよね桜乃ちゃん……あっいた。――ん?男…の子……っ』

桜乃はFILAの帽子を被った少年と自動販売機の前にいた。なぜか桜乃は恐縮しきっているようで何度も頭を下げていた。
一瞬動きが止まったがなんとか持ち直し、桜は内心首を傾げつつも二人に近づいた。

『…桜乃ちゃん。どうしたの?』
「あっ、桜さん!」

声をかければようやく桜に気付いた涙目の桜乃が振り向いた。
と同時に、隣の少年も桜の存在に気がつく。吊り上った目が特徴的な少年だ。

「…誰、アンタ」

少しだけ顔を赤らめたが生意気な口をきく猫目の少年の問いに、桜は面白いものを見たかのように目を細めた。

『…人に名前を訊くならまず自分から名乗るのが礼儀よ、少年』

すると鋭かった目つきがさらに悪くなり、少年は帽子のつばをぐいっと下げると低い声音で名乗った。

「越前リョーマ……っス」
『そう。私は神崎桜よ。よろしく越前君。で、なんで桜乃ちゃんはそんなに縮こまってるの?』

不意に桜乃に視線を滑らせると、桜乃は顔を真っ青にして俯いた。

「…あの、実は駅で間違った道を教えちゃって……」
『そうなの。だから試合に遅れるとどうなるかって訊いたのね』
「はい……」

リョーマと桜乃の顔を交互に見て、桜は納得したように頷いた。この二人を見れば一目瞭然だろう。
失格(ダメ)だったのね』
「………はい(恥ずかしいよぅ)」

地面に視線を落としてしまった桜乃の頭を桜は優しく撫でた。

『(落ち込んでるなぁ。それにしても……越前リョーマ、か)』

と物思いに沈んでいると、背後から複数の足音がした。そして癇に障る声が鼓膜を震わせた。

「おっあいつさっきのガキじゃねーか?」
「あれれ?何かもう負けて帰るみたいよん」

桜が振り返ると、そこには高校生らしき男女が四人。リョーマを小馬鹿にしたような目で立っていた。
桜乃は緊張で身を固くした。

「(どうしよう。さっきの高校生だ…)」
『(…なんか嫌な感じの子たちね。知り合い?って…)』

「危ない!!」

高校生の一人の長髪の男が、リョーマにラケットを叩きつけるように腕を振りかぶった。それはリョーマの顔面スレスレで止まる。

「ガキが俺様にテニスを語るなんざ10年早ぇーんだよ。うんちくだけじゃテニスは勝てないっつーワケだ!!」
「「「アッハッハッハッハッ」」」
『(……なんて子。アイツが見てたら…そもそも私が今すぐ膝詰めて説教したいところだけど。全く最近の若者は……)』

高笑いしながら通り過ぎていく高校生に、桜は目を細めて手を握りしめた。
心中は怒りで占められていたが、あまり騒ぎを大きくするのも困る。肩を落として少々年寄りじみたことを考えていると、高校生と桜乃がぶつかった。

「わっ!?汚え。ジュースこぼしやがった!!」

高校生は目を吊り上げ、震える桜乃に詰め寄った。

「ベトベトじゃん。どーすんだよこのボケ!!俺はあのガキと違って決勝まで試合残ってんだ!!」
「ご…ごめんなさ……」
『そんな風に言うことないでしょう』

顔を真っ青にさせている桜乃を庇うように桜は高校生と対峙した。か弱い少女に接するにはあまりに悪い態度に柳眉を顰める。

『汚してしまったのは申し訳ないけどわざとじゃないのだからそうカリカリしないで。謝ってるでしょう』
「!!」

いきなり美少女が割って入って来たのに高校生は顔を赤くして怯んだように一歩後ろへ下がった。
しかし桜の言い方にはカチンときたのか気を取り直して声を荒げる。

「う、うるせぇ!関係ない奴はひっこんでろ!!」
『あなた、見たところ高校生でしょう。自分より年下の、しかも女の子に怒鳴るなんて大人げないとは思わないの?』
「なっこのアマっ!」


ブシュ!!


唐突にプルタブを開けた音がして、ジュースが高校生にかかった。目を瞠る桜の耳に挑発的な声が入ってくる。

「ねぇ…グリップは覚えたの?」

犯人はそう問いかけるとジュースをぐいっと呷り、周りが呆気にとられる中生意気な眼をして言った。


「なんなら…アンタにテニスを教えてやるよ!!」



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