頂を目指す二ノ姫

□越前リョーマとテニスの女王様
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場所は移ってテニスコート
マナーの悪い声援の中、リョーマと高校生、佐々部の試合が始まった。心配そうな桜乃の隣で桜は悠然と成り行きを見ていた。

「ザ・ベスト・オブ・1セットマッチ。佐々部サービスプレイ」
『(さて、どうなるかしらね)』

今の桜を他人が見れば、確実に顔を赤らめるか距離をとるだろう。妖艶に笑う桜に自覚はないが。

「(ガキに俺のサーブが…)返せるかっつーの!!」

そう言い放った佐々部のサーブはそのままリョーマのコートに入った。黄色い残像に高校生たちが歓声を上げる。

「奴のファーストサーブ、180キロ近く出てるぞ。ガキ相手に本気、ムゴイー!!」
「あ…危ないよぅ」
『大丈夫よ桜乃ちゃん』
「えっ?」

耐えきれずに吹き出した桜は、心配そうにしている桜乃の頭をポンと叩いた。視線は小柄なリョーマに向けられているが、そこには心配も不安もない。

『(多分越前君はわざと見送った。相手の実力をあのお莫迦さんはまるで計れてないわ)』

口元に手を持っていき、愉しそうに笑う桜を桜乃は不思議そうに見つめたが、桜の視線は変わらずにリョーマへと向いていた。

「(へっ。ビビったようだな)ゆっくり打ってやろーか!?」
「いーよ。別に…」
「あったりめーだろ。ガキだからって容赦するかっつ――の!!」

力任せに放たれたサーブに桜は肩を竦めて笑みを深めた。

『(遅いわね)』
「遅いよ!」

リョーマはしっかりボールを見据えてバックハンドで佐々部のサーブを鮮やかに返した。
自分は考えていただけのことをリョーマが口にしたので桜はフッと笑った。

「!」
「ええ―――っウソだろ――――っ!?」
「佐々部のファーストサーブ打ち返したよ!!」

外野の声に当の佐々部は驚くこともなく余裕で答える。

「バーカ。まぐれに決まっ…」
「ねぇ…今のセカンドサーブ?」
「…ち。つまんねぇギャグかましやがって」
『(やっぱり駄目ね、彼。それより越前君、かなりうまいわ)』

その後もリョーマは佐々部のサーブを着々と返して点を取っていった。感嘆の声を上げる桜乃を桜は微笑ましげに見た。
一方で高校生側は明らかに動揺していた。こんなはずではなかった、と表情から語っていた。

「おいおいどーなってんだ!?」
「あの佐々部がサービスゲーム落としたよ!!」
「バーカ!!ガキに華を持たせてんのがわかんねぇのかよ!ガキのサーブなんてチョロイチョロ…」
「ふーん」
「嫌なガキだぜ」
『(君がね)』

思わずツッコんでしまった桜は、リョーマのサーブのフォームを観察しようと目を凝らした。

「ゲームカウント1−0 越前リード!」

次の瞬間、リョーマは流れるような動作でサーブを打った。ボールは速さと重さを持って、しっかりコートに突き刺さるように入った。

「なっ?」
「決勝まで試合が残ってるんだろ?じゃあ早めに終わらそーか」
「(……)」
「う、うめーぞあのチビ」
『(今更だわ。でもなんだか違和感があるのよね、彼。フォームはとっても綺麗なんだけど)』

うーん、と唸っているとフェンスの扉がギィと重い音をさせて開いた。

「会場におらんと思ったらこんな所にいた。こまった王子様だ…きれいなフォームだね。アイツの親父にそっくりだよ!」
「おばあちゃん!」
『スミレちゃん』
「驚いたねぇ。リョーマと桜乃ちゃん達が一緒にいたとは」
『もしかして「教え子の息子」って彼のことなの?』
「まあね」

なるほど、と桜はリョーマの姿を見て納得した。

『(スミレちゃんが言うだけあるわ)』


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