頂を目指す二ノ姫

□女王の怒り
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パシィ!


あまりの展開にその場は騒然となった。海堂は頬に走った衝撃に一瞬茫然としたが、叩かれたと理解すると今度は桜を睨みつけた。が、桜の表情を見て言葉が出なかった。

『あなた、何してるのよ!』

桜は普段からは想像がつかないほど険しい表情をしていた。海堂を睨みつける瞳の奥には悲しみも見え隠れしている。

『自分を傷つけるなんて…ラケットは殴るためのものでも、体を傷つけるためのものでもないのよ!それは薫だって分かっているでしょう!』

桜の激昂した姿にハッとした海堂は、途端に罪悪感に苛まれた。あの時を、思い起こすような姿だった。

「(…俺は…桜先輩になんて顔をさせてんだ……)すいません…でした…」

海堂は気付いたら頭を下げていた。桜の姿を見ていられなくなったからでもある。周りは桜の剣幕と海堂の珍しい行動に完全に引いていたが、それでも桜の言葉の真剣さに胸を打たれた。

『私に謝ってどうするの!とにかく、手当てしないと。こっちに来なさい!!』

桜は憤懣やるかたないといった体で海堂の腕を掴んだ。そのまま部室に強引に連行する。海堂は桜にされるがままだ。

『ここに座って。傷口を見せなさい!』

言われるがままベンチに座り、右足を出した。桜は傷口を丹念に見ていく。

『……自分でやったから自制が効いたか。骨にも異常はないみたいだけど、何が原因でテニスが出来なくなるか分からないのよ。もうこんなことはしないでちょうだい』
「ハイ……すいません」

ようやく頭が冷えてきたらしい桜は、それでも怒りがおさまらないらしく消毒液を傷口にぶっかけた。さすがの海堂もいきなりの攻撃に小さく呻いた。

『痛いでしょ。当然よ』

肩を下ろして鼻を鳴らした桜はそれから声を低くして海堂に語りかけるように話し始めた。

『まだ終わりじゃないでしょう。言ったわね、レギュラーの座は諦めないと。ならなおさら万全の状態で臨むべきだったはずよ。目先の事に囚われるべきではなかった。そうよね』
「はい」
『なるべく痛みが無いようにしなきゃね。明日私のところに来なさい。傷を負うと何でもなくても負担がかかるものだから、テーピングするわ』
「お願いします」

海堂は先程から恐縮しっぱなしだ。それに満足したのか桜はいつものように柔らかく笑った。

『終わったわ。行っていいわよ』
「…先輩。ありがとうございました」
『どういたしまして』

頭を下げて部室を出ていった海堂を見つめる桜の目には違う人物が重なっていた。

『(無理……しないでほしいのに)』

しかし桜はハッとした。無意識に胸元に手を当てる。

『(私……いつからこんなにも気にするようになったの……)』

自分は何のためにここに居るのか……
深入りはしないと決めていたはずなのに、こんなにも大事に思うようになるなんて……

『(あまり長くこちらに居過ぎたかしら)』

救急箱を片づけながら桜は自嘲の笑みをこぼした。すると体の奥がスッと冷えるような感覚がして、桜は勢いよく顔を上げた。徐々に大きくなっていくそれに、慌ててポケットの中を探り始める。

『こんな時に…タイミングいいんだか悪いんだか……』

目当てのものを引き当てると桜は立ち上がった。





桜と海堂が消えた後、

「桜があんなに怒鳴るとこ久しぶりに見たぞ」
「良いデータがとれた。桜は怒ると母親のようになるんだな」

高速でノートにペンを走らせる乾に大石は顔を引き攣らせた。どんな時でもブレない男である。

「…何はともあれ、海堂に勝っちまいやがった」
「まだ仮入部の1年が…」
「青学レギュラーの一人に…」
「こりゃおもしれーぞあの1年!!」


ランキング戦初日終了
A〜Cブロックはレギュラーが順当に勝ち進んだ。一方Dブロックは波乱の予感…

乾貞治 2戦全勝(残り3試合)
越前リョーマ 3戦全勝(残り2試合)
海堂薫 2勝1敗(残り2試合)



→atogaki
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