頂を目指す二ノ姫

□高き壁
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難なく返されて先制されてしまう。

『(やっぱりか)』
「あっ、やられた!!アプローチの方向読まれてたみたい!?」
「偶然だろ!?確かに乾先輩はサーブも速いしお手本のようなプレイスタイルだけど、海堂先輩の『スネイク』の方がスゴかったって!」

得意げな堀尾は不安げなカチローとカツオに言い聞かせるように胸を反る。

「サーブは速いけど、ショットもスピードも越前の方が上だよ」
『確かにそうだけど、視野の狭窄は敗北に繋がるわよ』
「えっ」

静かに会話に入り込んだ桜を堀尾は不思議そうに見上げた。まだ1年生なのだから、彼らを導くのも彼女の仕事の一つだ。

『相手の力量を侮ることはすなわち自分の力量を量れていないということ。一つの側面で物事を見てはだめよ』
「ど、どういうことですか!」

驚く堀尾に見てれば分かる、とコートに視線を戻した。リョーマが打ち返したボールを難なく拾う乾。

「いいコースだけど、ハズレだ」
「…………」
「30−0!!」
「乾がまた取ったぞ!!」
「…………」

カツオは乾の動きを見て驚愕の声を上げた。

「ねぇ。越前君が打つと同時にポジションについてない!?ほら!やっぱり乾先輩って相手の打ち返す場所がわかってるんじゃ…」

桜は乾の相変わらずのテニスに舌を巻いた。そしてこれから起こることにリョーマに同情を禁じ得ない。

「また前に出た!!」
「(左側は全然スペースがない!)」
「(ロブを上げるか?右側に打つか?)」
『(リョーマの性格からいえば、左側かしら)』
「にゃろう」

桜の予想通りにリョーマはスペースのない左側(クロス)に打った。しかし、


「左の確率75%…」


「!」
『(始まった…)』

逆をついたはずなのに、乾は反応して打ち返した。

「オオッ。逆をつかれたのに乾先輩が反応したぞっ。決まった!!」
『(―いいえ。これで終わらない)』
「(ここから…越前リョーマはすごい瞬発力を見せる)」

すかさずリョーマは走り込んで取るが、

「(予想通り!)しかし…ボール2個分…届かない」

無情にもネットに当たり、地面に落ちたボールに堀尾たちは青ざめた。

「「「やっぱり読まれてるよ!!」」」
「気味悪いほどスキのないプレイじゃん。桜先輩の言った通り侮れない…海堂先輩より手強いかも…」
「あたりまえだよ」

慌てふためく1年トリオに、後ろから声がかかった。

「不二先輩!」
「乾は越前君よりも強いよ。なにせ海堂君に3戦3勝なんだから」

そうにこやかに爆弾を落とした不二は、桜にやあ、と手を挙げた。

「ここにいたんだね、桜」
『ええ。気になっちゃって』
「やっぱり」

ピリピリした空気の中コートで乾が口を開いた。冷静で淡々とした声音だった。

「海堂君の試合も含め、君の過去4試合を見せてもらった。ストレート12本、クロス5本、ロブ3本。
―今のケースでスライス回転のアプローチに対し、クロスに打ってくる確率はわずか25%…」

語りだす乾の言葉にフェンスの外にいる堀尾達も呆気にとられる。

「でも長身の俺に対してあそこのロブはない。そして右側にオープンスペースができたことにより、強気な君は俺の裏をかくために必ず難しいクロスを狙う。つまり確率は逆転し75%となる」
「ゲームカウント1−0 乾リード!!」

1ゲームを先取した乾はただの作業のようだ。カチローは驚きに開いた口が塞がらない。

「そんなことがわかるなんて。海堂先輩に3戦3勝…」

リョーマは口を引き結び、面白くなさそうな表情をした。

「…ふーん。ヤな戦い方」
「参考になったかな」
「別に」
「生意気なルーキーだ(ここはセンターだ)」

リョーマがサーブを打つと同時に前へ走り出した乾は途中で止まった。桜は目を瞬かせた。


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