頂を目指す二ノ姫

□不敵に笑う生意気なルーキー
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乾は息が荒くなってきても思考を冷静に働かせた。どんな状況でも落ち着いて考える事が最善なのだ。

「(確かに右の確率は95%だ。来た右!!予想通り…)」

しかし乾の思いとは裏腹に、ボールはラケットのフレームに当たりこぼれ落ちた。乾のデータとリョーマの動きにズレが生じ始めていた。

「越前君のリズムが…早くなりだした」
「ふ、不二先輩、桜先輩。確かに片足のスプリットステップは次の動作に入りやすそうだけど、相手がどっちに打つかわかってないと逆の足で着地しちゃってマイナスですよ!?足が交差してオレにはちょっと…」
「まさかリョーマ君が乾先輩ばりにデータ予測を…?」
「あのテニスは乾にしか出来ないよ」

不二はそう否定の言葉を口にすると桜を見下ろした。「説明してあげれば?」と促され、堀尾たちが不思議そうにするのを見ながら桜は渋々口を開いた。

『跳んでる一瞬の間に判断するのよ。あれだと半歩どころか一歩半早いから、取れない球も取れるわ』
「よっぽどの天性の嗅覚がないと出来ない技…」
『きっと貞治は今、別人と戦っている気分でしょうね』
「って桜先輩、随分断定的に説明してくれましたけど、まさか」

桜は驚きの表情で見つめてくる1年生ズに困ったように笑った。





井上はリョーマのステップに感嘆の声を上げた。

「こりゃ驚いた…!!まさかあのステップを出来る子が、日本中学テニス界に…………同時に三人も存在するなんて」
「もう二人!?」
「芝。お前も昨日見ただろう。関東ナンバーワンチームの、立海大附属中2年エース 切原赤也クンだよ。そしてもう一人も昨日会って、話をしたな。校門で」
「そっそれって、神崎桜ちゃんの事ですか!!」
「えっ桜さん!?」

桜の名前に桜乃は勢いよく反応した。唯一誰だが分かっていない朋香は怪訝な顔をした。

「知ってるの?桜乃」
「う、うん。っていうかどこかにいるよ。だってテニス部のマネージャー兼コーチだもん」

この間会った桜がテニス部のマネージャー兼コーチだとスミレから聞いた桜乃はその時かなり驚いた。しかしテニス部の顧問であるスミレの知り合いで、おまけにテニスの試合を見に来ていたのだからそう考えられるとも思い自分の考えのなさにちょっとだけ肩を落としたのは内緒だ。今はコーチだということに驚いたのだと考えるようにした。

「そう。その桜ちゃんだ。あまり使わないみたいだが前に取材に来た時に披露してくれたよ」

井上はそう嬉しそうに語った。





乾はリョーマの打球を読んではいるが、スピードに翻弄され対応できずにミスを連発した。

「まいったな。予測しても返せない打球を打つ奴がいるなんてね…でも」

またぶつぶつ言い始めた乾に桜は感嘆するとともに苦笑した。不二も呆れたように肩を落とした。

「うーん。タフだねぇ乾も」
『それが貞治だもの』
「やれやれ」

リョーマも呆れたような感嘆したような声で呟いた。

「……ねぇ乾先輩」

ボールを何度もバウンドさせ、ラケットを右手に持ち替える。

「?」
『なるほど』

周囲が不思議に思う傍ら、桜はリョーマの思惑に気付き目元を和ませた。負けず嫌いで勝気。勝利を手繰り寄せる気質を充分に持っているようだ。

「来る場所がわかってても取れない球…もう一つあるよ」
「(一体何を?)」

訝しむ乾に、リョーマはツイストサーブをお見舞いした。ボールは乾の顔面めがけて跳ね上がる。これにはギャラリーも度肝を抜かれていた。

「な!?」
「な、何だ!?あのサーブ」
「ああ!!」
「出たぁ!!」
「ツ、ツイストサーブ!?(あの少年…『サムライ』越前南次郎と重なる―――いやそんなハズが…)」

呆然とする井上は周囲とは別の意味で驚いていた。桜はふぅ、と息を吐き出す。

『決まったわね。この試合』
「そうだった。リョーマ君にはコレがあったんだ!!」
「これはすごい」

桜は見えた勝敗に複雑な感情を抱いていた。若干顔が曇るが、それに気付く者はいなかった。

「(ツイストサーブ!?たしかにあれは右で打たないと意味がない…しかし逆の手であんなショットが)なんて奴だ」
「右手じゃ威力は落ちるけど、そのメガネに向かって跳んでってほしーからね!!」

リョーマが放ったツイストサーブを攻略しようと、知識とデータで打とうとするがラケットが弾かれた。

「(理屈じゃない!!)」



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