頂を目指す二ノ姫
□負けず嫌いな奴ら
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数十分もすれば、全員がコートに座りこんでいた。桜はタオルを配り終えるとクリップボードを乾に見せた。
「思ったよりは動けたね。さすが」
『うん。まずは英二ね。インパクト時にグリップがずれる傾向があるから、前腕筋を鍛えればもっとショットが安定するわよ』
「大石・海堂は前後、河村・不二は左右へのダッシュが甘い…大腿四頭筋と下腿三頭筋を強化する必要がある」
「「「どこだよそれは」」」
聞き慣れない単語に四人から一斉にツッコミが入った。桜は笑って桃城に向き直る。
『桃はショットを70%位の力で抑えて打った方が確実性が増すわ』
「へーい。イテッ」
桜は寝転がる桃城の頭をぺしっと叩いた。
「手塚には柔軟が必要だ―表情も堅いしね」
「ププッ」
『確かにね』
手塚の表情に周りからは笑いが起こり、桜は真剣に頷いた。
『そしてリョーマは―』
「毎日2本ずついこう」
リョーマの目には、乾の手に握られた2本の牛乳ビンが映った。表情を顰めたリョーマは身を起こしながら反論する。
「――いくら牛乳飲んだって10日間でデカくなるわけ…」
「「「飲めよ!!」」」
しかし菊丸、桃城、大石、そして海堂にまで遮られ「飲め」と勧められた。挙句の果てに、
「乾が言うんだ。間違いないだろう」
手塚にも言われる始末。
「おやおや。一本とられたね」
『ちなみに貞治で実証済みだから』
桜も面白そうにつけ足して、段ボールから新たに鉛の板を取りだした。
「じゃあそろそろ本題に戻って…鉛の枚数を1枚追加…」
そう言って桜から受け取った鉛を乾が渡そうとするが、
「「「待てよ乾。5枚でいい」」」
「お前と同じ枚数だろ?」
『あら。バレてたわね?』
フフッと笑って桜は乾を横目で見上げた。スミレも桜と同じように面白そうに鼻を鳴らした。
「ね。乾先輩、桜先輩。どーせ5枚までやるんでしょ?」
「6枚でもいーけどね」
頼もしい限りの言葉だ。しかし見通しが甘い。余裕綽々の桃城とリョーマに桜は首を振った。目は悪戯に細まっていた。
『いいえ』
「レギュラーは10枚まで」
その枚数に意気揚々とコートに向かっていた彼らは全員足を止め、乾めがけてボールを投げつけた。
「ふざけんな」
「鬼コーチ!!」
桜にはボールを投げつけない辺り、桜の部活内での位置とレギュラーの桜に対する感情がわかる。しかし桜はそんな事お構いなしに出てきた単語に反応した。
『あら、鬼コーチ?
上等じゃない』
桜の高いのに地の底から這い上がって来るような威圧感のある声に、全員動きを止めた。彼らの目にはしっかり『氷の微笑み』を発動させた桜の姿が見えていた。お望みとばかりに彼女の背後には鬼、いや般若がいる。
「さ、桜…」
手塚には珍しい狼狽したような声にレギュラーが驚く暇もなく、桜はさらに笑顔を濃くしてのたまった。
『何か、枚数に文句でもあるのかしら?』
「「「ありません!!!」」」
慌てて全員コートに散って行った。
「(体力を強化すると技術は何倍も生きる)」
『(でも、みんなの最大の武器はこの向上心――)』
桜とスミレは心の中で同時に同じことを思っていた。それだけ、彼らの長所は目に見えて分かりやすいし、強い輝きを放っている。
『(ほんと、面白い子たち)』
「(よくこれだけ負けず嫌いがそろったもんだ)目指すは中学ナンバーワン!!青学ーファイ!!」
「「「オ―――!!」」」
高みを目指して、彼らは走り出した。
→atogaki