頂を目指す二ノ姫

□負けず嫌いな奴ら
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レギュラーが決まり、本格的な練習に入った青学テニス部は熱気に包まれていた。ドリンクを作り、洗濯物を干し終わった桜はドリンクとタオル、そして愛用のラケットを手にコートに足を踏み入れた。飛んでくる挨拶に笑って答えていると、ちょうどスミレがやって来た。

『相変わらず、すごいわね』

部員に喝を飛ばし、ボールを打つパワフルなスミレに桜は苦笑する。あれで孫がいるのだから凄い女性だ。

「よし!全員整列だ!!」

手塚の号令に桜は大石とスミレの間に収まった。

「今回の校内戦で決定したレギュラー8名は都大会まで団体戦を戦い抜く。どの学校も年々レベルが上がってきているからね。決して油断するんじゃないよ――以上!」

桜はそこまで聞くと、荷物を持って歩いてくる人影を見つけて申し訳なく思った。

『(手伝えばよかったわ)』

そもそも雑用などは自分の仕事だ。少し落ち込んだが、横で手塚が声を張り上げるので顔を上げた。

「よし。練習を続行する!2・3年はCコートへ。1年は球拾い。レギュラーはA・Bコートで……『ちょっと待って』」

手塚の言葉を桜が遮り、虚を突かれた手塚の横でスミレが後を引き継いだ。

「お前たちには、桜とこの男にとっておきの練習メニューを頼んでおいた」
「この男…?」
「あっ」
「「「乾!!?」」」
「やあ」

片手を上げて返事をした乾に桜は謝った。

『ごめん。私が持って来なきゃいけなかったわね』
「いや。桜は今コーチだ。気にしなくていい」
『……アリガト』

彼の気遣いに桜ははにかんで笑った。そのやりとりを聞いていた菊丸が首を傾げる。

「桜、コーチになんの?」
『ええ。レギュラーが決まったからね』

桜はそう言ってジャージの腕を捲って雰囲気を一変させた。今までのしおらしさはどこかに消え失せていて、口元には挑発的な笑みを浮かべている。

『リョーマっていう1年生もいることだし、ビシバシいくわよ。覚悟しててね』

妖艶に笑う桜に周囲は顔を引き攣らせた。特に2・3年生だ。

「「「(桜/先輩はスパルタなんだよな)」」」

経験者は語ると言ったところである。しかし全員の心の声など届くはずもなく、桜は固まる部員に気付かずに乾の持ってきた段ボール箱を漁った。

「全国大会までの今後の長い試合を乗りきるには、まず足腰の強化から」
『さあみんな。これを足につけて』

そう言ってレギュラーに渡されたのはパワーアンクルだ。

「250gの鉛の板を2枚さし込んである。両足に1kgの負荷がかかるよ」
「ふーん。そんなにたいした重さじゃないっスね」

つけ終わった桃城は余裕の表情を見せた。リョーマも軽く跳躍している。たしかにそのままでは彼らにとって大した重さにはならないだろう。

『赤・青・黄のカラーコーン。それと同じ様に赤・青・黄に溝をぬり分けた3種類のボールをたくさん用意したわ。あなた達はボールを溝の色と同じコーンに当てるの』

桜がそこまで説明すると、全員位置に着いた。乾が菊丸にアンダーでボールを出す。

「にゃるほどね」

菊丸は瞬時に色を判断してボールを打った。

「黄!!!」
『おっ。さすがね英二』
「動体視力に関して英二の右に出る奴は…「いるよ。ホラ」」

大石の言葉を不二が奪い、指をさした。その先ではひときわ小柄な影が素早く動いていた。

「隣のコートの彼!」
「青」
「青!!」
「赤!!」

クリップボードに書き込んでいた桜はへぇ、と感心したように息をついた。

「二人ともやりおるな」
『でもそろそろ…1kgを実感する頃…』
「「!!」」

意地悪く笑う桜の予想通り、突然足に重さを感じ、リョーマと菊丸は目を見開いた。

「体力が落ちると判断力も鈍る。桜。しっかり書き留めておいてくれ」
『もちろんよ。誰に言ってるの貞治?』
「……神崎コーチだったな」

にっこり笑われた乾は苦笑いになった。問いかける事こそ愚問であった。

「なんだこりゃ。急に足が重く…なる程。こりゃキツイかも…あ…赤!」
「…菊丸それ青じゃない?」
「え?あれウソ……―――わ!!」

飛んできたボールの色は赤だ。乾の罠にまんまとはまった菊丸はボールを取りこぼした。

「あーっ乾ひでー!!やっぱ赤でいいんじゃん!!」
『あらあら』


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