頂を目指す二ノ姫

□切原赤也!!
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切原は視線を桜から手塚に移すと、桜の手を取って手塚に近寄った。

『ちょ、赤也』
「昨年の関東大会の団体戦でうちの先輩を破ったのあんただけだし。いやーちょっとお手合わせしたいなあ!!」
「お、おい」

焦る大石には見向きもしない。切原の視線には手塚しかいなかった。手塚は困った表情をしている桜と切原に掴まれている彼女の手を交互に見た。そして桜の空いている方の手を掴み、自分の方に引き寄せた。よろけた桜の身体を受け止め、切原を見下ろすようにして一言告げる。

「部外者は出ていけ」
『(相変わらず、はっきり言うわね)』

切原を歯牙にもかけないはっきりした物言いに桜は心の中でフゥと息をついた。鋭く断定的な言動と少々堅い口調は昔からで、よく先輩にも反感を買ったものだ。そして当然その言い方には切原もカチンときた。

「そんなー手塚さん。1セットでいいっスよ?堅い人だなぁ。こーんな顔ばっかしてると疲れちまいますよ。っていうか桜さんを取らないでくださいよ」
「……」
『ちょっと、取るって何?』

桜の疑問に答えず眉間に指を持っていってしかめ面をする切原。そんな切原に今度は傍で聞いていた荒井がキレて声を荒げた。

「おいコラくせっ毛!!うちの部長と桜先輩に失礼なことしてんじゃねぇよ!!」

荒井はそのままカゴの中のボールを一つ掴み、

「とっとと出て行けよ!!」
「バカ!荒井!!」

切原めがけて打った。それなりのスピードのボールを簡単に避けると切原は慌てずラケットに吸いつかせるようにしていなした。

「…横から口はさまないでくれる?」
『(……さすが…ね)』
「手塚さんさあ。別に深い意味じゃなくて1球2球交えようって言ってるだけじゃん。そんなシカト気分悪いなあ。


アンタ潰すよ」


凄みのある表情をした切原は次の瞬間にはまたにっこり笑って、荒井にボールを返そうと後ろを見ずに打った。そこまでならかっこいい、とも言える。しかし、

「うごっ」
「桃!?」

狙いは外れて隣にいた桃城の頬に当たった。桃城の手からすっぽ抜けたラケットは回転しながらカチローの頭に直撃し、彼が運んできたボールは辺り一面に散乱した。ボールに足を取られて転んだ部員はいらつきボールを投げたが、当たった人間が悪かった。

「あっ」
『あらあら』


「やったの誰だ…!?」


後頭部にボールを受けた海堂は目を怒らせて振り向いた。彼の逆鱗に触れたことによりコートは騒然となる。

「うわ――っ!!海堂がキレた!!」
「じゃ、じゃあ桜さん!また会いましょうね――!!」
『ちょ、ちょっと待ちなさい赤也!』
「みんなやめろ!!切原逃げるな」

慌てて乾の前を通り過ぎ、コートから立ち去る切原に制止の声を上げるが、それよりも鋭く厳しい部長の一喝に掻き消えた。


「全員グラウンド30周してこい!!」


『……なんだか疲れたわ………』

桜は手塚の腕から離れると嵐が去ったことに長い溜息をついた。

「…知り合いだったのか?」

桜は走りに行った部員に同情の視線を向けていたが、そう問われて顔を上げた。

『ええ。去年立海の偵察に行った時に知り合ったのよ。弦一郎とかが紹介してくれて。たまに遊んだりしていたし』
「……そうか」

それっきり口を開かなくなった手塚に首を傾げたが、桜はあえて聞かずに散乱したボールを片付け始めた。

『(っていうか私は走らなくてもいいのかしら)』
「(たまに遊んだことがあったのか…)」

手塚は知らされていなかったこの事実に若干ショックを受けたようにしばらくの間立ち尽くした。





「立海中の切原が来たのか」

スミレがやってきて事の顛末を説明し終えた桜は困ったように頷いた。

「…………手塚。無理する必要はないぞ。先を考えてリハビリを…」
「竜崎先生。いまはあいつらと大会を勝ち抜くことしか考えてませんよ」
『国光…』
「桜との約束も…必ず守るさ」
『………ええ……』

その決意の瞳に、桜浮かない表情でそう返事をするだけで精いっぱいだった。



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