頂を目指す二ノ姫

□地区予選開始!
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『それで…ダブルスをしたいって?』
「っス」
「お願いします桜先輩。俺たちにダブルスを教えてください!!」

いきなりリョーマと桃城に呼び出された桜は神社に来ていた。「はじめての方のダブルス」と題された明らかに初心者のための本を持っている二人に桜は溜息を吐かざるを得ない。明日が地区予選と言うことは分かって言っているのだろうか。

『オーダーはスミレちゃんと決めるからなんとも言えないけど…あなたたち、今から練習するってこと?』
「そうです」
『そうですって………………はぁ…わかったわ。あなたたちは一度決めたら絶対に曲げないものね』

真剣に自分を見つめてくるリョーマと桃城に桜は折れた。仕方なく本を開いて一から説明することにした。

『はい。まずはココ。ダブルスの基礎1「真ん中はフォアの人が取りましょう」よ』
「聞いたか越前。オレが言ったろ?」
「ふーん。でもバックの時だって取りたいっス」
「同感だけどよ。それじゃダブルスになんないんだって」
『基本中の基本なんだけどね。それでよくダブルスしようだなんて思ったわね』

自己主張が激しい後輩たちに桜は呆れた。二人は明後日の方を向いていて桜の方をまともに見ようとはしない。

『……とにかく、リョーマは今回は右手にすること』
「ウイース。でもあれっスよね。自分のコートになんかチラチラいるとボールぶつけたくなりません?」
「…お前俺を先輩だと思ってないだろ」
『まぁまぁ』

とにかく話を先に進めたい桜は軽く桃城をなだめた。これでは何日あってもダブルスの形にすらならない。

『とにかく真ん中はフォアが取ること。これがまず第一。お見合いなんて言語道断よ!』
「了解っス」
「合図ほしいなぁ。お互いOK出しあうとか…」
『まぁ初心者ならそれもアリか』
「かけ声決めとくか」

そう言った桃城は辺りを見回すと、ふと上を見上げてにやりと笑った。

「あれでいこうぜ」
『え……』
「いいっスね」
『(いいの!!?)』

二人の視線の先にあるのは「阿」と「吽」の口の形をした仁王像。桜は後輩のセンスに若干不安を覚えた。

「よっしゃ。フォアが『阿』でバックが『吽』な」
「『吽』が下がるってことっスね」
「おうよ!!」
『(もう……何も言うまい)』

どんどん話を進めて行く桃城とリョーマに桜は諦めることにして次の説明を始めた。




この昨日のやり取りのまま二人は試合に臨んでいる。恥ずかしいが桜が諦めた結果だ。
しかし今の桜には恥ずかしさよりも気になることがあった。

『(…私が重点的に見たのは真ん中の対処だけ。なるべく周りを見るように言ったけどどこまで出来るか………)』

完璧にシングルス向きでダブルスが全くの初心者のリョーマ。彼がたった一日でダブルスの動きが出来るかと言われればその可能性は果てしなく低い。そして試合はリョーマと桃城が押していたが桜の不安が的中してしまった。
前衛の後ろに落とされたボールをリョーマが受け、そのため桃城とリョーマが縦に並んだ。玉林はすかさずガラ空きのコートへボールを打つ。
しかしリョーマと桃城は驚異的なスピードでボールに追いつき、そのせいで衝突してしまった。

「《15‐40!》」

審判の声が嫌に響いて聞こえた。

「…やりおった」
「真ん中以外の意志の疎通は0だな」

スミレと手塚の呆れた口調に桜は大きく息を吐きだした。恐れていたことが起きてしまった。

『(もう、言ったことすぐ忘れるんだから……相手にも気付かれたわね)』

その後玉林は二人とも前衛に出るダブルポーチでリョーマと桃城にじわじわ追いつき、勢いにのっていた。

「ふーん」
「うまいね。あの玉林ペア」
「急造コンビじゃ苦労するかも」
「…かもね」

青学のダブルスの要、ゴールデンペアの大石と菊丸の評価に桜も心中で同意した。

『(でも、リョーマのあの顔は、期待させる何かがあるわよね)』

不敵に笑うリョーマがラケットを握りしめたのを桜は見逃さなかった。


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