頂を目指す二ノ姫

□戦いの後
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「どうしたんだい?あらたまって。てっきり河村の家でみんなと一緒かと思っとったのに…」

桜と手塚はイスに座るスミレの前で静かに立っていた。不安げな表情の桜は手塚の顔を盗み見る。

『(国光、あなたは……)』

青学の全国優勝のために。そして桜との約束、誓いのために。手塚は最善を尽くす。
これもその一つで、彼が出来うる最良のことだ。その決意のほどがにじみ出ていて桜も敏感に感じ取る。だから何も言えない。心配そうに揺れる瞳を受け止め、手塚は静かに口を開いた。


「竜崎先生…越前と、試合させて下さい」


その言葉が室内に響き、桜は目を瞑った。










地区予選から8日後。
高架下のテニスコートで二人の人間がテニスの試合をしていた。


手塚とリョーマである。


手塚の放ったボレーはコートに落ちるとネット側に転がった。

「ゲーム…セット…か」
『……ええ』

二人の試合を陰でずっと見ていた桜と大石はひっそりと呟いた。

「越前」

手塚は息の上がっているリョーマに声をかけ、ネット際まで近づいた。自分を見上げてくるリョーマに、静かに、しかし力強く言った。



「お前は青学の柱になれ!」



何も言わないリョーマを残して手塚はコートを後にした。その様子を見た桜は、大石には分からないように顔を伏せながら表情を歪めていた。

『(ああ。歯車は止まらない。私の力も……まだ健在ってこと……)』

桜は己の不甲斐なさを諫めるように、ぐっと拳に力を込めた。





電車の中。大石は険しい表情をしていた。

「全力を出すとは聞いてなかったぞ」
『一言くらい言ってほしかったわ。零式ドロップまで使って…全力を出さなければ負けてた。そういうこと?』

しかし手塚は桜の問いには答えなかった。

「桜、大石。これから病院に寄ってもいいか?」
『そう言うと思った。もう連絡入れておいたわ』
「無理するからだ。悪化でもしたらどうする」

大石は怒ったように言うと心配そうに目を伏せた。

「……手塚、桜…越前は…乗りこえてくれるだろうか。地区予選から8日…やっと眼のケガもなおったところだったのに…」
『そうね。本当ならこんな強引な手は避けたいところなんだけどね』
「今後の為とはいえちょっとショックだったろうな。あいつ負けたことなさそうだし」

しかし桜はフッと口角を上げた。あの負けず嫌いの目が思い起こされる。

『でもね秀。私、実はそこまで心配してないのよ』
「え?」
『リョーマ。多分何回も負けてるわ』

桜の言い方に疑問を持ったが、大石は桜の雰囲気に首を傾げるだけにとどめた。こういう時の桜は絶対に聞いても答えないからだ。

「………」

この二人の会話の間手塚は一言も発さず、窓の外を見下ろしているだけだった。桜と大石は手塚の様子に声をかける。

『国光?』
「聞いてるのか手塚!?」
「ああ…」

手塚の視線の先には、一心不乱にボールを打つリョーマの姿があった。

『(リョーマは……大丈夫ね)』

桜は静かに微笑み胸を撫で下ろした。
この出来事が、いつか必ず実を結ぶ、希望だった。




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