頂を目指す二ノ姫

□戦いの後
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「「「「乾杯!」」」


河村の寄ってほしいトコというのは彼の自宅である寿司屋『かわむらずし』だった。河村の父親が地区予選の労いに寿司をご馳走してくれるというのだ。食べ盛りの中学生がそれを断るはずもなく、病院に行っていたリョーマも合流してかわむらずしは青学レギュラーとマネージャーで賑わっていた。

『それにしても私もいいの?スミレちゃんもいないんだし、私も』
「そんなこと言うなよ!桜がいてこその勝利だし!!」
「ああ、気にすることはない。第一お前は寿司が好きだろう」

手塚がそう言うと、河村の父親は嬉しそうに桜に笑いかけた。

「なんだって!?そりゃ嬉しいね!!何握りやしょうか?」
『…それじゃあお言葉に甘えてサワラでも』
「面白い所を頼むな、桜は」

手塚と乾の間に座っていた桜はお茶を飲んで微笑んだ。やはり好物を食べられることは嬉しい。

「ところで先生!いつも隆がお世話になってます。どうです一杯!?」
『フッ!』
「部長の手塚です」
「こ、こりゃあすまねえ…」
「いえ」

大将の言葉に吹き出した桜はそのままお腹を抱えておかしそうに声を殺しながら笑った。お茶を含んでいなかったことが幸いだった。手塚は目尻に涙こそ浮かべていないものの笑い続ける桜を横目で見下ろした。

「…笑いすぎだ」
「桜がそんなにツボッて笑うの初めて見た」
「そうだな」
『…そう?ごめんなさいね国光』
「笑いながら言う事ではないだろう」

不機嫌そうな手塚に桜は片手をあげて謝った。しかしその顔はいまだに緩んでいる。
その後ろでは、

「あー海堂!!オレがアナゴ好きなのを知ってて…!!」

素知らぬ顔でアナゴを食す海堂を指差した菊丸は、他に2つ残っているはずと見回すが、

「足らねぇな。足らねぇよ」
「そーっスね」
「こ、こいつら…」

桃城とリョーマが食べてしまった後だった。そこで一人巻物を食べていた不二にターゲットを移す。

「不ー二。なんだあれ」
「ん?」
「もーらった。へへへのかっぱ!!かっぱ巻き!」

満面の笑みで不二がつられた隙に巻物を強奪した菊丸はそれをよく見ずに口の中に入れるが、入れた物が悪かった。もとい、不二から取ったのがいけなかった。

「ひぃ〜〜っなんだこりゃっ何食ってんの!?」
「ワサビずしだけど?」
「そう言えば不二。激辛好きだったよね」
『それとゲテモノ好きよきっと。ほら、英二お茶!』

見かねた桜がアナゴとお茶を菊丸の前に差し出した。奪うように菊丸がお茶を受け取り豪快に呷る。

「っお〜生き返った!!ってアナゴ!!サンキュー桜!」
『どういたしまして』

桜は菊丸に優しく微笑んだ。





「お騒がせしました」
『おいしいお寿司ありがとうございました』
「いやいや。また来てな!!」

手塚と大石と桜は一足先に店から出ることにした。学校に寄るためだ。お辞儀をした手塚と桜は暖簾をくぐる。

「あいつら…全然聞いてないな。まあ今日くらいはいいか」

遅れて外に出た大石と並んで三人は学校への道を歩き出した。桜は今日の試合を思い出して顔を綻ばせる。

『けが人は出てしまったけれど、みんな頑張ったものね。ほんとお疲れ様。ただ国光の試合が見られなかったのはやっぱり少し残念だったわ』
「最後はシングルス1まで回らなかったもんな。越前はほんとよく頑張ったよ」
『そうね。距離感が掴めなくてやりづらかったでしょうに。リョーマは侮れないわね』
「ああ。まったくだ」
「……………………大石、桜」

それまで黙って桜と大石の会話を聞いていた手塚が真剣な声音で二人の名を呼んだ。その声音に何かを感じ取り二人は黙る。

「…………聞いてくれ。俺は――――」

その言葉を聞いて、桜と大石は顔を見合わせた。学校はもうすぐだ。



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