頂を目指す二ノ姫U

□奇妙なファーストコンタクト
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しかし、それと同時に沸き上がる思いもまた、桜にとって大切だった
だから言えるのだ


『それでも…みんなにはこのまま、平穏な時を過ごしてほしいわ』

「……そうだね」


桜に頷いた栞はフッと笑って可愛らしく笑った


「それよりさ、この間すっごいおいしいモンブラン売ってるお店見つけたんだ!
評判もかなりいいし、今からいかない?」

『まだ買い物全く始めてないけど?』

「とか言いつつホントはあんまり買う気なかったでしょ〜?
腹が減ってはって言うじゃん!!行こうよ!!」

『まぁ、いいけどね』


フフッと笑った桜に栞は腕を絡める
そして満面の笑みで店に向かおうと少し小走りになった
そこに、


「ねぇねぇ彼女たち!良かったら俺たちと遊ばない?」

「2人だけじゃさみしーでしょ?どう?」」


突然2人の男に行く手を阻まれ、桜と栞は思わず止まった
男は2人とも軽そうなイメージが強く、あまり感じの良いものではなかった
服をだらしなく着崩していてあまりいい印象を持てない
栞は顔を顰めた桜を心持男から遠ざけるように半歩前に出て言った


「すいませんけど、別にさみしくないんで結構です
どいていただけません?」

「そんなこと言わないで。いーいじゃん遊ぼうよ!」

「そうそう。ってか2人ともすっげーかわいいね
よく言われるでしょ?」

「(話聞けよ!!)」

『(…邪魔……)こちらにも都合があるんです。失礼ですけど』

「え〜?なになに??上手く聞こえないよ〜?」

「そうそう。ほら、行こうぜ!!」

『(聞こえてんじゃないの!!)ってちょっと!離してください』

「桜に触るな!!」


強引に桜の腕を掴んだ男に栞が激高した
次の瞬間





「おい」





低い男の声がかけられた
「ああ?」と反射的に振り向いた男たちは、若干顔を青くさせた
なぜなら彼らの後ろには白ランに身を包んだ、目つきの悪い男がいたからだ
不良のような出で立ちの彼は、不機嫌そうに男たちを睨んだ


「テメーら、道のまん中で何やってんだ?
ジャマだ!失せろ!!」

「ス、スイマセンデシター!!」


と、まるでコントのように脱兎のごとく走り去って行った男たちに桜たちは茫然とした
しかし追い払ってくれた白ランの彼が舌打ちをした音で我に返り、桜は彼に頭を下げた


『あ、あの…助けて下さってありがとうございます』

「…ありがとうございます」


すると彼は目つきをこれでもかと鋭くさせて桜たちを睨みつけた


「あ?助けた訳じゃねぇ。ジャマだったからだ
テメーらも邪魔だ。とっとと失せろ」


そう言った男の顔を見て桜は声を上げそうになった
彼の着ている白ランは、もし青学が準決勝を勝ち上がれば決勝で戦うかもしれない山吹中のものだ
しかしそれ以上に、彼の顔には見覚えがあった
だから一瞬桜は驚いたのだ
栞も声を失っているようで彼の顔をまじまじとみている
だが徐々に険しいよりもさらに剣呑な表情になる彼に桜は口を開いた


『………あの、お礼をさせていただけないでしょうか』

「いらねー」

「いや、そーいわず!!」


栞も力強く言った
煩わしそうに彼の眉間にしわが寄る


「だからいらねーっつってんだろ!とっとと失せろ!」

『そう言わないで。近くの喫茶店とかでいいですか?
あ、だから栞ちゃん。モンブランのお店はまた今度ね』

「!!」

「う〜ん。ま、しょうがないかぁ」


そう栞に言った言葉に反応した彼に桜は内心笑った
予想通りの反応に嬉しくてしょうがない
栞も同じなのかわざとらしく思案顔で残念そうに言う


「………おい」


一瞬の沈黙の後、少年が静かにドスのきいた声を発した
そのことに桜と栞はにっこりと笑った


「…モンブランってのは、この近くの店のか?」

『ええ。とってもおいしいって評判らしくって
そこに行こうかって彼女と話していて』

「もしかして…モンブランお好きなんですか?」


そう聞かれた彼は機嫌悪そうに盛大に顔を歪めた
栞はあらかじめ決めていたように満面の笑みを彼に向けた


「それなら一緒にお店行きませんか?
私たちおごりますし、行けて一石二鳥!どーですか?」

「………………わかった。行く」


長い沈黙の後にそう言った彼に桜たちは目論見が当たり内心ガッツポーズをした


『(今はモンブランが好きなのね)』

「(栗好きは変わらないんだ)」

『よかった。あ、私神崎桜といいます』

「初瀬栞でーす!!」

「……………………亜久津仁だ」





こうして亜久津仁との2回目のファーストコンタクトを果たしたのだ




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