頂を目指す二ノ姫V

□女王の休息
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新たな始まりの時
しかしそれは崩壊へのカウントダウンに他ならない
迫りくる別れの時と再会の刻
今はただ息を潜めるのみ

「じゃあ次の英文を……神崎さん、読んでください」

『はい』


現在英語の授業中
桜は教科書を持って立ち上がった
その英文に若干眉根を寄せたが、悟られないようにしっかりと声を発する


『After that, I was feeling that kept walking for a long time at dark, dark night.
It is likely to have to do to me.
It was a large sacrifice,
and the pain according to it was compensation to accomplish it ..the kick...
Therefore, I hesitated, shut eyes, and waited for the thing to pass quietly.
Eternal permanence started wrapping me.
It was man that helped such me out by saying gently,
"I am for a long time nearby".』

「はい、素晴らしい。完璧な発音ですね」


そうにっこりと笑って言われて桜はストンと腰を下ろした
本場さながらの流暢な英語にクラス中の視線が注がれる
しかし桜はそれをサラリと受け流して前を向いていた
その心中は先程の英文の内容だった


『(なんだか私みたいだったわね…この女の子…
でも、私には……“俺がずっとそばにいる”なんて…
言ってくれる人は現れないし、必要もないわよね…)』


そう結論付けて桜は背筋を伸ばした
人の視線には慣れたから真っ直ぐに黒板に目を向ける


「(相変わらずだな)」


桜の背中しか見えない手塚は桜の心中など気付く訳は無かった
前を向く桜の背中を感心したように見ていた






















「やーっぱ桜ちゃんすごいわ〜」


休憩時間に桜の机に近寄って来た栞はきゃーっと表情を綻ばせて言った


「あれ本場顔負けだよ。流暢過ぎ!
あの手塚くんもずっと見てたもんね」

「!」


唐突に呼ばれた手塚は片方の眉を上げた
栞の席の隣は手塚だったりする


「本当、凄いよね桜ちゃん
苦手科目無いよね」

「うんうん。数学とかも得意だし、体育も毎回大活躍だし!」


クラスの女子がわらわらと集まって来て桜はその賛辞に苦笑した
勉強が出来るのは永く時を生きて来たからで、体育は勿論死神だからだ
人とは違うからの賛辞だからか素直には喜べない
周りの女子はそんなこと微塵も知りえないのだから仕方のないことではあるが
すると賛辞に頷いていた栞がふと口を滑らせた


「でも桜ちゃん。情報の授業は少し苦手だよね。パソコンとか」

『そうだけど何?』

「…いや。なんもない」


素晴らしい笑顔の桜に栞は即座に降参した
桜の笑顔は笑っているのにどこか凄みがあって、それ以上喋るな、と如実に語っている

中学に入った当初、パソコンが苦手だった桜はよく手塚や大石に泣きついていた
フリーズさせたりはざらで、そのたびに助けを求めていたのだが今思うとかなり情けない
しかも乾にも個人授業を受けたりして随分と弱音を吐いたものだ
それを覚えているからこそ桜にとっては思い出したくない記憶の一つだ
その地雷にうっかり足を置いてしまった栞を助けるかのように、手塚が声をかけた


「桜。今日の部活の事なんだが」

『なに?』


手塚に呼ばれて桜は彼に顔を向けた
視線が外されて栞ははぁ、と息を吐き出す
桜の背筋が凍るような笑顔は心臓に悪い
するとさっきまで桜に賛辞を送っていた女子が俄かに色めき立った


「それにしても桜ちゃんと手塚くん。お似合いだよね〜」

「幼馴染なんでしょ?そこから恋に発展とかないのかな!?」

「手塚くんの方は脈ありっぽいけど、桜ちゃんはわかんないよね〜」


このぐらいの歳の女子の話で盛り上がる事と言えば恋愛話
しかも他人の話ほど盛り上がる事は無い
聞いていた栞は遠い目をした


「(恋愛…ね。するわけないな〜今の状況じゃ…
例え相手が国光さんであってもね…っていうかバレバレじゃん)」


その時の老獪な笑みを見た者はいなかった



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