頂を目指す二ノ姫V

□青学の部長
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だが、それよりも彼女の悲しそうな表情が浮かんできた
大切な幼馴染にそんな顔をさせているのは他ならぬ自分自身
しかし手塚の心はすでに決まっていた


「(すまない、桜。お前にそんな顔をさせた…
だがお前の隣に立ち、お前の前を歩く為には……必要なんだ)」


手塚はそう心の中で吐露し、乾を見据えた


「手塚……ドロップを打つ際ラケットヘッドが3.2ミリ下がる
3.2ミリだ」

『(細かいわね。そこまで調べたの…)』

「努力と執念は…時として技術をも上まわる」


怒涛の攻めを見せる乾
しかし手塚がこのまま黙っているわけはなかった
特にブレイクポイントで乾に取られれば5−3となり圧倒的に不利になる
仕掛けるならここだった
大石は白熱する試合のなか手塚を見ていた


「(確かにテニスは実力の上下だけで結果は決まらない
以前そう言ったよな手塚…)」


乾はリョーマ、海堂にランキング戦で負けて以来、この日の為にデータを集めて来た
桃城をも破り、レギュラーの座を奪い返した彼の気迫は相当なものだ


「(しかしあの手塚が同じ部内で追いつめられるとは)」


「《デュース!!》」



大石が目を瞑った瞬間、ポイントが入った。決めたのは手塚だ
しかしそれはあまり関係が無い
見ていなかった大石とは違い、見ていた部員は目と口を開いてコートを凝視していた
信じられないという思いが強いからか、唖然として言葉が出てこない
驚いている大石の視線を感じながらも、しっかりと見ていた桜はクリップボードをかき抱いた


『(……あれが……国光の意地…か)』





「さあ乾。試合は終わっていない。続けるぞ」





静かに、手塚は乾に背を向けてそう言った















「タカさん。今何が起きたんだい?」

「そ、それは…」


河村が言いあぐねていると、手塚はサーブを打った
コーナーギリギリに吸い込まれていくボールに歓声が上がる


「スゴイッ!!あの乾先輩が押され始めてる!?」

「これが手塚部長―――――っ!!」

「なるほど」


大石はそんな手塚を見て納得したように頷いた


「さっきまでの手塚は本気じゃなかったのか…
肉体を鍛え上げた乾でも反応できない球を打たれれば勝機はないな
さすが手塚だ!」

「違うんだ大石」


慌てて大石を制する河村の表情が必死だ
桜は静かに手塚の足元を指差した


『秀一郎。よく見てみなさい』

「!あ、あれは!?」



離れたところで試合を見ていた井上は圧倒されていた


「とんでもない……彼は中学生レベルを完全に超えてる」





『見て。国光はあの場所から一歩たりとも動いていないのよ』





桜は静かにラケットを振う彼を見ていた
右足を軸に、ボールに回転を加えそれを自在に操る
そして吸い寄せるように自分のもとへ相手に打たせる
まるで人形使いである桜のようなスタイル


『(やっぱり使えるようになってたのね
本当……負けず嫌い………)』


桜は無茶をし過ぎな彼に目を細めた

あの技なら例え予測できていたとしても無意味になる
だから乾に対してはこれ以上もないほど有効な技だが


「そんな事が可能なんですか!?」

「そんな事が出来るから手塚は強いんだよ
まさに『手塚ゾーン』……とでも言うべきか」


「(今まで幾度となく対戦したが……
こ、これが本当の――手塚の強さ
桜に一歩近づく実力
ならまさか桜も……)」


そんなことを考えている乾の視界に映った手塚のラケットに彼はハッとした
手塚のラケットヘッドが3.2ミリ下がっていたのだ



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