頂を目指す二ノ姫V

□青学の部長
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「(もう一度流れを引き戻す!!)」

「(来た!)」


一度対戦し、その技を受けたリョーマは目を開いてその様子を凝視していた
桜も厳しい表情でそれを見る


『出すのね。本当の伝家の宝刀


滅多に見ることが出来ないそのドロップショットは

コートに落ちた瞬間ネットに向かって転がった

周囲は呆気にとられて最早歓声さえも出てこない


「(ボールが、も、戻るなんて…)」


その時、乾の手首に結んであったミサンガが切れて地面に落ちた


『(……そういえば、今年はまだだったわね)』


桜はコートをまるで遠くを見るように見つめた
手塚は乱れた息を少し整えるとちらっと桜を一瞥してボールを拾った


「(……すまない、桜)

さあ、油断せずに行こう」


「これが俺たち青学の部長…





手塚国光だよ





不二の真っ直ぐな声がコートにこだました
























『……………』

「……………」


静かな部室には桜と手塚の2人しかいなかった
少し前まではまだ数名がまばらに残っていたのだが、2人
主に桜から発せられる雰囲気に全員我先にと退散したのだ
手塚はその原因が自分にあることを承知しているのでこの場に残っていた
しかし残っていたのはいいのだが桜は部誌を黙々と書いており、一言も発しない為話しかけづらかった
だがいつまでもこのまま沈黙しているわけにもいかないと、手塚は意を決して口を開いた


「桜……」

『………なに…』


名前を呼ばれて桜はようやく口を開いた
しかしその声音は若干硬い
手塚は怯みそうになったもののこう言っていた


「…………すまなかった桜」

『なにがよ…』

「お前の言った通り、俺はアレが出来た」

『………』

「そして桜が使わないでほしいと言っていたにもかかわらず、使った
そしてこれからも俺は使うと思う。それに対しての謝罪だ」


そうはっきりと言われて桜ははぁ、と息を吐いてシャーペンを置いて部誌を閉じた
手塚を振り返るその目には呆れと心配が映っていた


『……いいわよ
どうせ使うと思ってたもの。ただ……』

「ただ……?」

『…………なんでもない
私が口出しできる所じゃないもの
ごめんなさいね』

「そういう言い方をするな
お前が口出しできないことなんて無いんだ」


手塚の真摯な目に桜は苦笑を零した
昔から口下手で突拍子もないことをよく言ったものであるが、今もそれは健在である


『…そういう言い方は誤解を招くわよ。ほら、帰りましょう』

「……………………ああ」


若干眉間のしわを濃くした手塚はテニスバックを肩にかけた
桜は思い出したように呟く


『そういえば、今日彩菜さんに夕食に誘っていただいたんだった』

「そうだったのか?聞いてないが」

『そうなの?昨日そう言われたのよ
フフッ。彩菜さんのご飯おいしいから楽しみだわ』

「………そうか」


嬉しそうに目を細める桜に手塚も柔らかい表情をする
すると桜は手塚の顔を見上げて、静かにそれを口にした


『……レギュラーおめでとう…』

「……ああ。ありがとう」


優しげな桜に手塚はもう一度だけ心の中で謝罪して部室を出た










おまけ

「……すまない、桜」

『えっと…今度はなに?』

「あの技は元々桜が完成させていた技だ
だから本来は神崎ゾーンと呼ばれるのが正しいだろう」

『いや、いいよ。なんだかゴロが悪い感じがするし
ま、今度私も使わせてもらうけどね』

「それはかまわないが、いきなりなぜだ?」

『だって私に出来ないとか思われるのちょっとだけ癪な気がするんだもの』

「(…………………………………………お前も大概負けず嫌いだな)」




→atogaki
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