頂を目指す二ノ姫V

□青学の部長
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「《ゲームカウント3−3!!》」


「すごいな乾!
校内ランキング戦で手塚相手に3ゲーム奪った奴なんて多分いないよ!」

「執念だな」

『ええ。そうね』


呟くように言う大石に桜は深く頷いた
乾は入部して以来、一度も手塚に勝てたことが無い
ある一人を除いて手塚は一度も負けたことが無いのだ
彼が桜以外に負けた所を見た部員は、今の3年はともかく下級生ではいないだろう
それゆえ乾はいつも打倒手塚に燃えていた
そしてその思いがあったからこそ、努力を怠らなかった
今のこの試合展開がその結果だ


『(得意なコース、苦手なコース、癖、プレイスタイル、思考
どんなことでも気付いて書き溜めて、それを分析してシミュレートして入念に対策を練って…
その成果が、貴方の今のこの強さに繋がったのね)』


桜は見るからに変わった彼の動きに、心配そうに手塚を見た
ただ、その視線の意味は彼の敗北を心配してではない


「左の確率100%…」

「すげぇ乾先輩。全くスキがない!!か、完璧だ!!」


乾は息を乱し静かに佇む手塚にこう言った





「手塚…データは嘘をつかないよ」





そして桜は、手塚の表情を見てギュッと拳を握った
何かを決意したような真っ直ぐなその表情
揺るぎない炎をその目に宿しているようだ


『(……本当……見かけによらず負けず嫌いなんだから…)』


心配ばかりをかける幼馴染となった彼に桜は息を吐いた
そして、そんな桜の様子を手塚は視界に捉えていた
拳を握り締め、物憂げに息をつく彼女の心情が分かってつい罪悪感に駆られる
しかしそれでもやらなければならない理由が手塚にはあった
それは部長として負けるわけにはいかないという思い
だがそれ以上に、部員がさらなる高みへと進み、自分自身も強くなる為には必要なことなのだ
強くなり、いつも自分たちの前を歩く彼女に少しでも手が届くように


「(桜。お前の許へと行く為に…)」


彼の脳裏には去年の記憶が甦っていた















「今の……なんだ?」

『なんだ…か。ちょっと困るわね』


ラケットを持って相対する手塚と桜
今しがたのラリーはその末に手塚の側にボールが落ちていた
それを一瞥した手塚は堪らず彼女に問いかけた

今の光景が信じられない

そう微かに目を見開いた彼に、桜は本当に困った顔をしてラケットを握り直す


『うーん。そうね…回転を利用してボールを引き寄せたの』


簡単に言う桜だが、それがどれほどの事か分かっているのだろうか
普通はありえないと思う事を彼女は平気でやってのけたのだ
しかもマネージャーへと転向した彼女がだ


「……さすが人形使い……ということか
試合から遠のいてまだこれか」


一向に埋まる事のない実力差に手塚は歯噛みする
しかし言われた桜は眉をハの字にして彼女にしては頼りなげな表情をした
手塚は少し驚いて口を開きかけたが桜の方が早かった


『…ねぇ国光。そうは言うけど……きっとこれは貴方にも出来ると思うわ』

「…そう……か?」

『ええ。きっと出来る。しかも私とは比べものも無いほど洗練された形で…
でも……個人的にはしないでほしいとも思ってる』

「なぜだ…」

『それは自分が一番分かっていると思ったのだけど?』

「………」


黙ったことが何よりの肯定だと分かってはいるが、手塚は何も言えなかった
すると桜はまるで中学生とは思えない表情で儚げに笑った
それはまるで妙齢の女性のようでもあり
老獪な老女のようでもあった


『でもきっと…貴方は使うんでしょうね。そういう人だもの』


そう言って、桜は手塚から視線を逸らし、背を向けた
















あの時の彼女の表情に、どこかひっかかりを覚えていた
何か思考をかすめる感覚に気分が悪くなる



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