頂を目指す二ノ姫V

□即席ダブルス
3ページ/7ページ




桃城はダンクスマッシュを返されたことに驚きを隠しきれなかった
忍足を見て茫然と立ち竦む


「2人とも危ないね…」

『なんとか持ち直してくれるといいんだけど』


荒い息の菊丸と唇を噛み締めている桃城とは反対に、忍足と向日はまだ余裕の表情だ


「自分らオモロイやっちゃなぁ」

「珍しいじゃん侑士。マジでやるなんてよ」


向日にそう言われた忍足はちらっとベンチに座る桜に視線を寄越した
そしてフッと中学生とは思えない笑みを浮かべる


「当たり前やろ?桜が見てんねんで?
エエとこ見せんとな」

「そうだな」

「(……)」

『(なんで私の名前が出るかな)』


納得がいったというように頷く向日ににっこりと笑う忍足
よくわからない桜は2人のやり取りに顔を顰めた
自分は関係ないと思うのだが


『(とか言ってるうちに点差が随分と開いてきてるわ)』


試合展開は完璧に青学が押され、点だけがかさんでいく
次第に追い詰められていく菊丸と桃城に桜も苦渋の表情だが、ぎゅっと拳を握った


『(侑士と岳人の方が1枚も2枚も上手ってこと…
でも英二も桃もこのままやられっぱなしじゃないわよね)』


勝利の為には、土壇場でパートナーが変わったことに動揺している菊丸の行動がキーになってくる
しかし大石にすべてを任せて好き勝手動いていただけの彼に果たしてそこまでの気が回るのか

桃城は流れを引き戻そうと懸命にボールに食らいついていた


「(よし。あの打球が返ってきたら――ドロップショットを打つ…………!)」


しかしその目論見は呆気なく覆される





攻めるん遅いわ





忍足がドロップショットを打ったことによって



「《ゲーム氷帝 4−0!!》」



強すぎる氷帝の正レギュラーの力に愕然とした菊丸は、唐突に大石の言葉を思い出した
それは心強いパートナーがくれた大切な言葉だ





「さあ挽回だ!!」





「大丈夫だよ英二」





「諦めるな――」






「(大石!)」


菊丸は根性でボールを返し、向日が返してきたそれもすかさず打ち返した
ボールはネットの上を転がり氷帝のコートへと入った



「《15−30》」


「ウソだろっ何て身のこなしだ!?」

『(きたわね……英二)』

「(こいつ……今までと目つきが変わった!)」


手でラケットを回す菊丸の目に向日は何かを感じ取った
どこか底知れぬモノを秘めた目とぶつかる
そんな菊丸に桃城が後ろから声をかけた


「英二先輩!」

「大丈夫だよ。桃…
諦めるな!
諦めなけりゃ必ず弱点は見えてくるんだ
チャンスはどっかにあるハズ





オレ達の力を信じよう





そう言ってラケットを構える菊丸に桜は背もたれに腰を預けた
もう彼は大丈夫だろう
柔らかく微笑んで彼らを見届ける


「なーんて、全部大石のウケウリだけどねん」


そう言った菊丸に桃城は吹き出した
菊丸も一緒になって笑いだす
桃城は思い出したように口角を上げて菊丸を見た


「…ところで、大石先輩からもう一つ伝言があるんスけど…」


そうしてポジションについた2人に周囲は驚き、訝しんだ
桜は腕を組んで目を若干細めた後口を開く


『あれは……オーストラリアンフォーメーション』


そこにはセンターラインを大きくまたいで腰を落とす菊丸の姿があった



.
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ