頂を目指す二ノ姫V

□不器用なダブルス
1ページ/9ページ





「《ゲームセットウォンバイ 青学!!菊丸・桃城ペア 6−4》」



その審判の声に桜はパッと立ち上がった
駆け寄ってくる菊丸と桃城の頭を勢いよく撫でる


『お疲れ様!!すごかったわ
よく急造コンビであれだけ動けたわね』

「にゃはは。サンキュー
桜のミサンガのおかげだよ」

「そっスね!!」


桜はにっこり笑うと大石に菊丸と桃城の背中を押し出す
大石は菊丸とハイタッチした


「お疲れさん。2人共ナイスゲーム」

「どもっス」

「ちかれたー!!
ホント桃よく動いてくれたよー
オレ達だけじゃ…」

「ああ…勝てなかったろうな!」


ニッと笑う大石に桜もふんわりと表情を綻ばせた


「とにかくこの一勝はデカいよ!!」


スミレの声に青学の歓声はさらに大きくなる
乾はラケットを取り出し、走っていた海堂に声をかけた


「さあ海堂。行くぞ」


桜はベンチに座り直し、氷帝を盗み見る
明らかに驚愕と動揺の色が浮かぶ彼ら
すると頭上に影が差して桜は顔を上げた


『さて、次は貴方たちね。調子は?』

「いいっス」


すっかりコンディションの整った海堂の揺るぎない声に桜は大きく頷く


『貴方たちもダブルス歴でいうならさっきといい勝負
でもお互いの持ち味を忘れず、今まで培ってきたものを出せればそれでいいわ』

「ああ、そうだな」

激ダサだな、お前ら


すると隣でそう切り捨てる声が轟いた
その声は氷帝の不安を一蹴する苛烈な声だ





おらぁ。うろたえてんじゃね――ぞ!!
勝つのは氷帝だろが!!気合い入れて応援しろアホ!!






それは長かった髪を切り、見事レギュラー復帰を果たした宍戸だった
彼の言葉に氷帝軍団の表情に変化が表れる
桜は戻ってきた宍戸に複雑ながらもフッと笑った


『(へぇ………やるじゃない)』

「(不動峰の橘に負けた事でデカくなりやがったな………………宍戸よ)」


跡部も満足そうに笑い、氷帝は活気を取り戻した
タオルを肩にかけ息を整えていた菊丸は宍戸の姿に驚いて指を差した


「あのボウシ宍戸か!
橘との試合以降5位決定戦にも出てなかったから」

「うん。完全にレギュラーから落ちたのかと思ってたよ」


乾は菊丸と不二の言葉を聞いて桜を見下した
静かな声で彼女に問いかける


「…宍戸のレギュラー復帰の為に、氷帝の監督に何か言ったのか?」

『!!』


驚いて顔を上げる桜の表情に乾は全てを理解した
桜は若干狼狽えた様子で乾を見上げる


『……なんで?』

「さっきの会話を聞いていてね。何となくそう思った。図星か?」

『………………ええ』


桜は表情を曇らせ言いにくそうに目を瞑った
海堂はその様子を静かに見ている
やがて桜は小さな声で呟くように言った


『………軽蔑する?』

「いや」


「《第2試合ダブルス1前へ》」



間髪いれずに答えた乾を不思議そうに桜は首を傾げた
審判の声が響く中乾はニヤッと笑ってこう言う


「データのとりがいがある」


その様子に桜は呆気にとられてフッと吹き出した
相変わらずの乾には頭が下がる


「だから気にしなくていいよ
それは部員全員の思いだ」

「………そうっスね」


そう言ってコートへと向かう2人に桜は今度こそ呆気にとられた
普通自分の学校のマネージャーが他校に肩入れしていたら怒るだろう
スパイだと疑われても仕方がない
なのに、


『……みんな……………私に甘すぎるのよ』


表情を歪めた桜に気づいたものはいなかった



.
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ