頂を目指す二ノ姫V

□パワー勝負
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桜は思わず声を荒げた


『何してるの!
片手の波動球は力をこめやすい分威力が増す
けど腕に負担がかかりすぎるわ!
何のために練習したと思ってるの!
今後テニスが出来なくなるわよ!!』

「(ごめん、桜。でもオレはこの試合絶対勝つ!
だからみんな…全国へ行ってくれ!!)」


やめるんだタカさん――っ!!


桜達の叫びも空しく、河村は波動球を打ち続けた
そしてそれは同時に樺地も同じ事だ


「バカめ。何度やっても同じだぜ!いけ……樺地」

「ウス…」


樺地は跡部に忠実に、波動球を打ち続けた
桜はハッとして河村を見る


『(…まさか……貴方……)』

「ガムシャラに打ったかて樺地には勝たれへん」

「ダメだぁ―――っあのフランケンには何やっても通用しな…」

「まだまだぁ―――っ!!構うもんかヒィート!!」


河村はまたしても波動球を打つ
それは中学を最後に家の家業である寿司屋を継ぐため
テニスを辞めて修業に入るから
今年でテニスを終わりにするからという河村の熱い心のせいだった
桜はぎゅっと拳を握り締めて無茶な試合を見ていた
彼らの想いが伝わってくるから。それでも…


『(今ここに座っている私には、彼らを護る義務がある
ベンチコーチを譲られたからには、役目を全うしなきゃ)』


桜は目を瞑り、そして河村に叫んだ





『もう止めなさい隆!!それ以上は許さないわよ!!』





その声に大石は目を瞠った
いつも河村のことを「タカさん」と呼んでいた桜が、名前を呼び捨てにしたのだ
その怒気が迸っている彼女の様子に息を詰まらせる
手塚も珍しい桜の怒りに微かに驚いていた。すると



「「「ああ――っ!!」」」



ボールがネットの前に転がっていた
荒い息を吐く河村とは違い静かに立つ樺地は、手の平から血を流していた


「もう打てません…」


その宣言に場内は騒然となった。桜は体から力を抜く


『(先に…樺地君の腕の方が………)』

「アイツまさか…
樺地が相手の技をコピーする習性を利用してあえて危険な片手の波動球勝負に持ち込んだのか?」

「どちらの腕が最後までもつか。一か八かの賭けに出たって事っスか?」

「だろうな」


跡部は鳳の言葉に頷く。向日がいきり立った


「きたねー。ハメやがったのか野郎!!」

「しかしテメーにそれが出来るか?自分の腕を犠牲にしてよ」

「ゔ」


宍戸に言われた向日は押し黙った
忍足は河村と、険しい表情の桜を見て口を開く


「たいしたモンやな。青学 河村隆」


何も言わない跡部はジッと河村を見ていた


「…もう打てないってことは」

「青学の……勝ち」


そう言って嬉しそうに顔を綻ばせる1年トリオ
しかし桜と榊は目を細めた


『(…いいえ)』

「彼も限界だったようだな」


カラン、と河村の手からラケットが落ちた
血が滴り落ちている彼の右手は震えている
桜はグッと唇をかんだ


『(……お疲れ)』


「《両者試合続行不可能により…シングルス3無効試合!!》」



桜は河村に駆け寄り、その目を見上げた
河村は申し訳なさそうに視線を彷徨わせている


「……ごめん桜。俺負けちゃっ…」

『お莫迦者!』

痛っ!


桜は腕を伸ばして河村の額にデコピンをお見舞いした
結構な音が響き、駆け寄って来た桃城と乾は顔を引き攣らせた


「(なんスか…今の音…)」

「(フム。桜はデコピンもかなりの威力があるようだな…)」

「(だからそのデータをとって何の意味が……)」


桜は額を押さえる河村に腰に手を当てて溜息を突いた


『言うことは他にあるんじゃないの?』

「………せっかく練習付き合ってもらったのに、無茶してゴメン…」

『別に練習云々はいいのよ……
問題はなんでこんな無茶をしたかってこと…
全く…どうしてこう向う見ずばっかりが多いのかしら…
スミレちゃんにも見てもらいなさい、その手』

「…あ、うん」

「ホラ。行きましょタカさん」


桃城が頃合いを見計らい、河村を連れて行った
桜は落ちていたラケットを拾い上げ、踵を返す
グリップテープが真っ赤に染まったそのラケットを、不二が見ていた


「それ……」

『タカさんのよ。これ』

「タカさん…こんな血まみれになるまで無理をして…」

桜の手からそれを受け取った不二はぽつりとこぼして河村に言った


「このラケット使ってもいいかな」


不二はそれを持って試合に臨む
次はシングルス2



→atogaki
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