頂を目指す二ノ姫V

□頂上対決
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「あのジローが手も足も出ぇへんかった。ホンマかいな」

「流石のアイツもこれだけの完敗じゃ落ち込んでんだろーな」


忍足と向日が言うジローは、落ち込むどころか余計にテンションを上げていた
一生懸命桜と不二に絡んでいる


「くっそ―――っ!!くやC――っ!!
やっぱ桜と同じ学校だからな〜すっげーよ!!」

『私と同じ学校なのは関係ないわよ』

「そうかな」

『周助…』


ややこしくなることを言う不二に桜は肩を竦めた
するとジローは今度は両手を力一杯握り締め不二に視線を向けた


「しっかしあの白鯨って技マジ凄いよ!あの消えるサーブも!
それからスマッシュをダイレクトに返すアレ何だっけ…?」

「つばめ返し?」

「そうそうそれも!スバラC」

『少し落ち着きなさいなジロー』

「A〜」

「…全然落ち込んでませんね」

「ヤローが落ち込むタマかよ」


鳳と宍戸は苦笑と呆れの交じった表情をしている
そのことに気付いた桜も苦笑した
負けたというのに何というハイテンションだ
すると背後で動く気配がして、その緩んだ表情を引き締めた
静かな空気が風に流される


「マジ完敗だったけどまたオメェと対戦してぇ!!」

「うん!あのマジックボレーはくらいたくないけど」

「打たせてくれなかったクセによく言うよ!
しっかし本当オメェより強い奴なんているんかい?」


そう言うジローに、桜と不二は同時に見た
ジャージを脱ぐ、頼もしい彼を


「うん。いるよ」

『そうね』


視線の先、青学部長手塚国光がコートへと入って来た
脱いだジャージを手に持ち、桜の許まで歩いてくる


「桜」

『分かってるわ』


手塚からジャージを受け取り、桜は緩やかに笑う
そのまま踵を返すかと思いきや、手塚は桜の目の前でジッと彼女を見下していた
不思議そうに桜は彼を見上げる


『……どうしたの?国光』


すると手塚は、力強い声音でおもむろに言った





「桜。俺はお前としたあの時の約束を、片時も忘れたことはない」








「お前と、俺自身に誓う――…」








『国光…』


手塚の目には決意しかなかった
確固たる意志の強さが見え、桜は眩しそうに目を細める
ふと思い立ち、桜は手塚の左手に触れた


「……桜?」

『(…………懐かしい)』


桜はその左手を両手で包み込むように握り、ギュッと目を瞑った
それは何ともない行為のはずなのに、どこか神聖な儀式を思わせる行為だった
手塚は一瞬呆気に取られていたが、すぐ微かに目尻を緩めて桜を見下す

少しの間2人はそうしていて、どちらとつかず手を離した
桜は懐かしむように目元を和ませた


『久しぶりでしょ。昔試合の前によくやったわね』

「そうだったな」


桜は自分の想いと、彼の勝利のために
手塚は桜への己の誓いと、彼女自身のために

手を握り、それを確認する
そうして手塚はいつも試合に臨んでいた
くるりと身を翻す手塚は桜に言う


「いってくる」

『いってらっしゃい』


手塚の背中がどんどん遠のいていく
そして彼は一人、コートに入って行った



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