頂を目指す二ノ姫V

□手塚の想い、跡部の想い
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「手塚っ。これ以上のプレイは危険だよ」

「それにその肩の状態であの跡部に勝利する確率は…極めて低い!」

「部長、無理っスよ!!」

「うんうん。桜も言ってやって!!」

『………』


桜は苦しそうな表情で手塚を見ていることしかできなかった
不意に手塚と視線がぶつかる
彼の苦痛に満ちたその瞳に迷いは無い


『(………もう…決めてるんでしょ?
貴方は……こうなったらもう絶対考えを変えないものね、今も昔も)』


桜の考えを読みとったように手塚はベンチから腰を上げた
誰の制止も聞かず、前へと歩き出し桜の脇を無言ですり抜ける
すると大石が悲痛な表情で手塚の前に立ち塞がった


「大石…」


桜と同じく、あの頃から手塚を見ていたのは大石だった
彼もまた、手塚の事で心を痛めていた一人だった
そして手塚の想いを汲み取れるのもまた、大石だった


「桜への誓いと、大和部長との約束を果たそうとしてるのか?
部をまとめて全国へ導くという」


その揺るぎない瞳が何よりの答えだったのだろう
大石は息をつき、仕方なく笑って拳を握り締め、腕をぶつけ合った


「がんばれ」


青学う――っ!!ファイオ――ッ!!


そこに病院から戻って来た河村の声が響き渡った
団旗を掲げ、彼は声を張る
それを受けて手塚は歩き出した
唯一人、何の言葉を発しなかった彼は静かに、けれど強い言葉を放った





「俺に勝っといて負けんな」





喧騒の中でも、その声は手塚にはっきりと届いた
身を翻すリョーマのその表情は強く、凛としていた
手塚はその言葉を受けてか背筋をぴんと張り、そして言った





「俺は負けない」





コートから離れていくリョーマ
桃城がその後を追いかける
彼はアップをしに行くのだ
手塚の後を引き継ぐために

徐々に離れていく手塚
その背中に桜は振り返り声をかけていた


『国光!』

「…………」


立ち止まった手塚はしかしこちらを振り向かなかった
頑なな背中に視界が緩む
けれど涙を流せる資格など無いから、声が震えないように口を開いた
喉を締め付ける感覚も何もかも無視して
戦場へとキミを送りだす

いつでも自分は、見送ることしかできない


『……いって………らっしゃい………………』

「!!…ああ……行ってくる」


顔を俯かせた桜の耳に、遠のいて行く手塚の足音がこだました























一歩一歩が重く、コートに入るまでが長い
手塚は踏みしめるようにその歩みを続けていた
彼の思考を満たしているのは、部員の言葉と大和の言葉
そして、泣きそうになるのを懸命に押し殺す、震える桜の声だった

ベンチに座った時も、声をかけてくれた時も
彼女にさせているのは自分が好ましいと思っている笑顔ではない
悲しみに満ちた顔だった


「(俺はいつも………そんな顔を…
そんな声をお前にさせてばかりだな………)」





『どうして……こんな無茶をするの!』



『お願い……お願いだから………もう…無茶しないで』






いつだって桜は己のために悲しんでいる。怒っている
ずっと笑顔でいてほしいと願っているくせにさせてしまうのは悲しい表情だ
それは今に始まった事ではなく、昔からずっとだ


「(……ずっと昔から……俺は悲しませてばかりだ…………)」



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