頂を目指す二ノ姫V

□手塚の想い、跡部の想い
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それからは手塚が若干跡部を押していた


「おらぁ!」


「《ゲーム青学3−2!!チェンジコート!!》」



ポイントを取る手塚に大石と桃城は安堵の息をもらした
跡部の言葉はハッタリだと思えるほどに手塚に変化は見られないからだ
しかし桜は楽観視出来なかった。跡部の余裕がずっと気になっている
それでも歩いてくる手塚に不安な表情は全てかき消してドリンクを差し出した


『はい』

「ああ」


隣に座った手塚は桜を見る


「…どうだ?」

『……そうね…
ちょっと攻め急いでる気がするけど…景吾相手じゃね…
体力を奪うのは間違いじゃないわ
あとは確実に点を取れるところで取れればいい
集中力を切らさないように』

「ああ。分かった」










「(相変わらずだな、桜は)」


手塚に助言する桜のことを見下していた柳はふっと口の端を緩めた
いつでも的確かつ無駄がない言葉
それでいて自分のプレーに自信をくれる
桜の言葉に勇気づけられることは多いから、聞きたくなるのだ

そして柳はふと気づいて真田に問いかける


「おい弦一郎おかしい
跡部の奴まだJr.選抜合宿で見せたアレを出してない」

「うむ。あのたまらんスマッシュだな!」


それは昨年の秋のJr.選抜合宿
4人の相手に対してスマッシュを打つ練習の時










「オラよ!!」

「えっ手首に…!?」


スマッシュを4人のうち1人の手首に当てた跡部
するともう一度ジャンプした
ラケットを振りかぶり不敵な笑みを浮かべる





「『破滅への輪舞曲』だ。覚えておけ!!」





それは何人目の前にいようとも、一打目のスマッシュでラケットを弾く
そして返って来た打球を二打目のスマッシュで確実に決める彼の技


「俺様の前にロブを上げたお前らが悪いぜ!」











それを覚えていた真田は、一向に打つ気配のない跡部に沈黙した


「おおっ凄ぇ打ち合いだ!!」


しかし手塚が返した打球は大きく弧を描いた


「甘いな手塚さん。ロブ上げちまいましたよっ!!」

「ああ。アレ出るぞ」


絶好のスマッシュチャンス
しかし跡部はにやりと口角を歪ませただけだった
足は地についたままだ


「真田副部長っスマッシュを打たないっすよ」

「ほう」


スマッシュを打たずに普通に返す跡部
彼を見て赤也は驚き、真田は何かに気づいたように目を眇めた

そしてまた、聡い桜と不二も気づいてしまった


『まさか……』

「この試合マズイ…」





ヒジはたしかに完治したかもな手塚!





自身満々に言う彼の言葉に桜は苦い表情を浮かべる
思わず右腕を掴んだ


『(…そういうこと…)』

「怪我したヒジじゃあんなドロップショットは打てねぇ」


しかし跡部の目には違うものが見えていた
彼は手塚の肩を見て笑う
そう、ヒジを庇って無意識に負担がかかっているのが肩だ
桜はその予想が確実に当たっていることを突きつけられたような気がして青ざめた


『(そうよ……それは充分に予想できたこと…
無意識だから国光でさえ気付かない…
私が気付かなきゃいけなかったのに…)』


桜はギュッと拳を握り締める
続くラリーに嫌な予感がしてならない


「(今までの様に20分程度で終わる試合ならなんて事ないが―――――
長時間のプレイに耐えられるか)」


跡部は至極楽しそうに不敵に笑った


「2時間は最低でも踊ってもらうぜ。その肩の破滅と共に!」



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