頂を目指す二ノ姫V

□彼らと彼女
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『電話で呼び出すなんて珍しいわね。どうしたの?』


先程の電話の相手も真田だった
時間があるなら話さないか、という内容だ
あまり携帯などを使わない真田がわざわざ電話をかけて来た
そのことに違和感を感じ、桜は手塚たちに断ってここまで来た
訊かれた真田はジッと桜を見下す
どこかその様子は頼りなさげだった


「……いや。いつもと様子が違うように感じただけだ
俺の思い過ごしだったようだ」

『…そう。わざわざ心配してくれてありがと』


しかし真田はまだ何か言いたげに桜を見下したままだ
身長差があるため、柳も同じく桜を見下している
赤也は2人に無言で見つめられているのに動揺が全く見られない桜に舌を巻いた


「(この2人とこんな状況になっても平気なのって桜さんぐらいだよな)」


他の女子や、下級生などがこのような状況になったらどうなるか
考えたくもなくなる
現に赤也自身も身体が強張ることがある
それほどこの2人の威圧感は半端ないのだ
しかし桜は全く変わらない
そのことが赤也にとって信じられない事で、密かに桜を尊敬する理由だ

その桜をジッと見ていた真田は静かに口を開いた


「…桜」

『何?』

「もし……何か悩みがあるなら…
俺でよければ聞こう
行き詰っているなら俺が力になろう
だから、一人で抱え込むな」

『!ど、どうしたのいきなり』


唐突な真田の言葉に桜は眉を上げた
モヤモヤとした、よくわからない感情が駆け巡る
真田を見ると彼も良く分かっていないようで、どうやら口を衝いて出たらしい
困惑した表情を浮かべてしまった真田に代わって柳が口を開いた


「……弦一郎は、お前が無理をしていないかを心配しているんだろう
確かに桜のデータでは、何かをため込みやすく
また自分ひとりで解決することが多いとあるからな」

『蓮二……弦一郎も……し「心配しすぎ、とお前は言う」…話を遮らないの』


セリフをとられた桜は困ったように笑った
その表情は、中学生とは思えない、酷く儚げで大人びた表情だ
そのことに真田たちは息を飲んだ


『どうしてそんなことを思ったのか知らないけど、気にしないで?
私、結構好き勝手にやってるから。大丈夫よ』

「…………そうか」


そう言われてしまえば、それまでだ
真田も渋々そう返した
すると赤也は「ん?」と首を傾げ桜の後ろの方を見た


「どうした赤也」

「いや、あれ氷帝じゃないっスか?」


そう言った赤也の視線の先を辿るべく振り返る
確かにそこに氷帝レギュラーが勢ぞろいしていた
桜が見たことに気づいて全員視線を向けてくる
真田はジッとその中で堂々たる跡部を睨みつけるように見ると、また桜を見下した


「どうやら奴らは桜に用があるようだな
俺達の用件は終わった。帰るとしよう」

「え〜っ!!俺全然桜さんと話出来てないっスけど!!」

「いいから、行くぞ。ではな、桜」

「関東大会…決勝まで上がってくる事を楽しみにしてるぞ」

『………ええ。必ず行くわ』

「きっとっスよ〜!!」


真田は桜に背を向けて歩き出した
背中を見ているであろう桜に悟られないように堂々と風をきる
途中柳の視線を感じるがそれも無視する
脳裏に渦巻くのは、手塚と跡部の試合の最中
突然感じた奇妙な感覚とそれに伴う頭痛


「(俺は…何を……桜に聞こうとしていたのだ)」


霧がかった、不明瞭な情景

雑音の混じる耳障りな音

試合を見ていたはずの自分の視界は、桜を映した直後唐突に差し替わった


「(…それに………あの声……)」





「敵に背を向けるなど言語道断!!俺は決して、退きはせん!!!」





手塚と跡部とほぼ時を同じくして、真田もとある情景と音声に襲われた
2人と違うのは、それを今もまだ忘れずにいることだ
しかし徐々に不透明に、零れ落ちている
あと何を言っていたのかはもう思い出せない


「(最近は不可解なことが多い
一体……何が起きている………)」


真田はグッと、眉間に力を込め拳を握った



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