頂を目指す二ノ姫V

□想いの欠片
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「………い。静かにしろてめーら」

「そうやで。桜が起きてしまうやろ。お見舞い置いて帰るで」

「………でもでも、桜と話したいC」

「ったく激ダサだぜジロー。今優先すべきは桜の体調だろ?」

「それはわかってっけどよ…」

「貴方もですか向日さん」

「先輩達。もう少し静かにした方が…」

「ウス………」


桜の意識は急速に浮上してきていた
聞き覚えのある声が周りから聞こえてくるからだ
しかも複数で、かなりの人数だ


『(……今の………)』


桜は重い瞼を懸命にこじ開け、視界に彼らを映した
真っ先に映ったのは、真っ赤なおかっぱと金髪の柔らかそうな髪


『………っんで…』

「あぁ…起きてしもたか、桜」

「悪ぃーな。さっさと帰るつもりだったんだけどよ」


目尻を擦ると視界がクリアになり、ベッドの脇に向日とジロー
そして申し訳なさそうに謝る忍足と宍戸の姿が見えた
少し頭を上に向けると、そこには腕を組む跡部と溜息をつく日吉
そして心配そうな顔の鳳と影のように立つ樺地の姿があった


『なんで……氷帝勢ぞろい……してるの?』

「あーん?何でも何も見舞いに来たに決まってんだろ」

「大人数で来てしまってすいません桜さん」

「ああ。悪かったな桜。だけどみんな心配してたんだ」

「ウス」


桜はその言葉を聞きながら身体を起こした
慌てて止める鳳に笑顔を向けてやんわりと断る


『大丈夫よ。入院と言っても検査入院だしね』

「けど、検査入院せなアカンことがまず問題やろ」


厳しい忍足に曖昧に笑う桜はふと疑問を口にした


『ところで、何で私が入院してるの知ってるの?』

「俺様にかかればそれぐらい分かる
と言いたいところだが、分かったのは忍足のおかげだ」

『侑士の?』

「せや。ここの病院長と俺の親父仲ええねん
んで、なんか唐突に俺と同じぐらいの子が入院したって話をしててな
気になって聞いてみれば桜のことっぽいし」

「そんで跡部が青学に確認してみたら、桜が入院したっていう話を聞かされたわけ」

「ホント、驚いたC」

『そうだったの……偶然ってすごいわね…』


というか出来過ぎな感じも否めないが考えていても仕方がない
桜がフッと笑うと忍足が紙袋を差し出す


「これお見舞い。どら焼きや」

「これスッゲーウメェから桜も食べてみて!!」

「あたり前だ。俺様の行きつけの店のどら焼きだからな」

『へぇどら焼き!ありがとう。あとで頂くわね』


ニコニコと笑う桜の傍に寄り跡部が顔を覗き込む


「顔色は悪くねーな。安心したぜ」

『…ありがとう景吾。みんなも。心配してくれて』


ふんわりと微笑んだ桜の頭を跡部が優しい笑みを浮かべて撫でた
その珍しい表情に忍足は内心驚いたが、すぐにいつものことだと持ち直す
桜のことになると態度が変わるのは前からで、それは跡部に限ったことではない


「(…ホンマ………みんな桜のこと好きなんやなぁ
まぁ人のことは言えんけど)」

「そういやよ、明日からの関東大会2日目はどうすんだ?
まだ退院日は決まってねーんだろ」

『ああ、うん。実はもう話を通してあるんだけど、明日退院しようと思って』

「………いくら何でも早すぎませんか」

「ああ。そんなんじゃ検査結果も出ねぇよ」


訝しむ日吉と跡部に桜は目尻を下げる
口元に手を当てて小首を傾げる


『まぁ、だから検査結果は後日ってことで』

「………それは…アカンやろ」

『…もうOK貰ったもの』

「……それ、無理やりとったんだろ」

「きっと反対されるC」

『………まぁ…猛反対されたけど』


ジト目で見られ、桜はそっぽを向いた
勝手なことを言っているのは分かっているが、それでも寝てなんていられない
すると腕を組んで盛大に溜息を吐いた跡部が大仰に言った


「お前は一度決めたらテコでも動かねぇからな」

「そうですね。しかもその意志を大抵押し通してしまいますもんね」

「まぁ、それが桜だよな」


なんて納得したような言葉を交わす跡部と鳳と宍戸に周りも頷いている
忍足は丸眼鏡を押し上げて困ったように笑った


「しゃあないやっちゃな
ほんなら青学の奴等にはよく言っとかな」

『………何を?』


忍足の目に何やら不穏な影を見て桜は口元を引き攣らせた
忍足はそんな桜を知ってか知らずか柔和な笑みを浮かべる


「決まってるやろ。俺等の姫さんをしっかりと見とってや、てな」

「ああ。手塚は今九州なんだろ?
なら余計に目を光らせておいてもらわなきゃな。なぁ樺地」

「ウス」

「だよね〜!桜ってちょっと危なっかしいもんね!」

「ジローに言われちゃオシマイだぜ桜」

「確かにな。ま、否定はしねーけどよ」

「桜さんは目が離せなくなるよね」

「………そうとも言うな」

『アハハ…ハ………』


何やら心配性な彼らに、桜は苦笑いしか出なかった
どこか立場が逆転したようなこの一瞬に瞼の裏が熱くなった



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