頂を目指す二ノ姫V

□女王の帰還
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跡部に礼を言い、桜は試合会場に足を踏み入れた
迎えに来た栞に柔らかく笑みを浮かべる


『もうお昼ね。午前中はどうだった?』

「え〜っとね〜勿論全国行き決めたよ!
ベスト4は六角に不動峰……それに立海。そして青学だよ
午後から準決勝で六角と対戦ね〜」


栞はそう言うと桜の手を掴んだ
低く、小さな声で囁く


「身体は大丈夫なんですか?」

『………ええ。大丈夫よ。いつもの事でしょ』

「……"リミット"…って訳じゃないんですよね?」

『そうだと思うわ』


それを聞くと栞ははぁ、と息を吐きだして表情を幼く変えた
今までの雰囲気が霧散する


「それを聞いて安心したよ〜
最近目まぐるしすぎてさ〜。ちょっと焦ったよ」

『……貴方こそ、無理してるんじゃない?』


すると栞は目を瞠って固まった
しかしすぐに「貴女ほどじゃありません」とまた彼女にしては珍しく桜に敬語を使った
それに桜は目尻を下げて困ったように息をつく


「………昨日、見て来たじゃないですか。物語の歯車を
だから余計に怖いんですよ。貴女がいなくなるんじゃないかって
それに白哉が予想外の動きをしたから心臓バクバクですよ〜」

『…………そうね……これも…罪でしょう……』


何とも言えない表情の桜に栞も目を伏せた
何も言うべき言葉は見つからないのだ
すると、栞が何かを発見して声を上げた


「……ね〜桜ちゃん
あっちから走って来るのって不二くんじゃない?」

『えっ?』


栞の言った通り、前方から不二が走って来ていた
桜達が見ている事に気づいて手を上げる


『周助』

「桜!退院するなら言ってくれれば良かったのに」


そう笑う不二に栞は肩を竦める


「何言っちゃってんの。午前中は試合だったじゃん
だから私が迎えに来たんです!」

「そうだったんだ。ありがとう初瀬」

「…なんかお礼言われると変な気分…」


顔を顰めた栞に苦笑し桜は不二を見た


『それより、何で分かったの?』

「たまたまだよ
佐伯に会いに行こうと思ってたら桜の姿が見えてね」

『そうだったの』

「ふーん。じゃあその佐伯くんって人に会いに行く途中なんだ?」

「うん。そうだ、桜も行かない?久しぶりだし」

『そうねぇ』


佐伯虎次郎は六角中の副部長で、何かとメールのやり取りをするうちの一人だ
裕太と試合をして負けたとの報告メールもくれている
桜は暫く会っていないことと、栞からの目配せに不二の誘いに乗った


「(……さて、一仕事しよっと)」

『行くわ』

「そっか。良かった。初瀬はどうする?」

「ん〜。そうだなぁ
じゃあ私は青学の皆に桜ちゃんが退院したこと報告してきたげるよ!
これで仮マネージャー終了っと!」


うーんと、伸びをする栞は悪戯っぽく笑った
桜は申し訳なさそうに頬を掻く
桜が入院中のマネを栞にお願いしていたのだ
いくら女テニはもう引退したとはいえ任せるのはまずかったか
栞はニヒヒと笑って桜の肩を叩いた


「そんな顔しなくてもいいよっ。結構楽しかったしね〜。乾汁とか!!」

『……アハハ』


渇いた笑みを浮かべる桜は自分が居ない時の部活を思って思わず不二の顔を見た
目尻を下げたその表情に何も聞かない事を誓った


『(…というか聞くのが怖いわ……
吹っ切れた秀と貞治と栞の最強トリオ…)』

「んじゃ、行くね〜。不二くん、桜ちゃんのことよろしく〜」

「うん。任せて」


軽快に走り出した栞を見送り、不二は桜に笑いかけて促した


「じゃ、僕達も行こうか」

『ええ』


すると不二は何かを思い出したようにあ、と声を零した
不思議に思って首を傾げる


『どうしたの?周助』

「ゴメン桜
じつは佐伯に桜が倒れて入院したこと知らせてあるんだ」

『えっ…』


一体どこまで自分のことが広まっているのか
桜は考えたくなくなって思考を放棄した



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