頂を目指す二ノ姫V

□女王の帰還
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案の定、会うなり佐伯は心配そうに桜の顔を覗き込んだ


「不二から聞いて驚いたよ。もう大丈夫なのか?」

『ええ、大丈夫よ。心配してくれてありがとうサエ』


ふんわり笑った桜に佐伯も爽やかに笑い返した
不二はその様子をにっこりと笑って見ている
何とも穏やかな風が流れる光景だ


「でも気をつけないとね。今日だって暑いしさ」

「うん。けどその辺りは僕達が目を光らせておくから」

「頼んだぞ不二」

「任せてよ」

『(………何なの、この会話…………)』


話に入れなかった桜はジャージの裾を払った
手持無沙汰な感じが否めない


『そういえば、六角と聖ルドルフの練習試合でさ
裕太に負けたって教えてくれたでしょ?』

「うん」

「裕太と佐伯もそうだけど、何気に六角と聖ルドルフって繋がりがあるよね
聖ルドルフの木更津君も元々六角中に居たよね」

『木更津…淳くんだったかな。双子の』

「ああ……よく知ってるじゃん不二、桜も!」


佐伯はポケットに手を突っ込み桜と不二に背を向けた


「聖ルドとの練習試合、サウスポー殺しの裕太君の気迫ったら凄かったよ
でもあんなテニスやってたら腕痛めちゃうよね」

「だから負けてくれたんだ…」

『やっぱりわざとだったの』


桜と不二は納得したように佐伯の背中を見た

いくら裕太がツイストスピンショットを使ったとしても経験の差というものがある
それに桜の見立てでは、裕太の実力はまだ佐伯に勝つ域には達していなかった
それなのに佐伯が負けたという報告がなされた時点で桜はいくつかの可能性を考えていた

勿論、テニスはやってみなけらば勝敗はわからない、と言えるものがある
しかし、その不確かなものを埋めるものが練習であり経験である
だからこそ、わざと負けた可能性が高いと考えていた
そしてその予想は当たっていたのだ
佐伯は人の良さそうな笑みを浮かべた


「どう。裕太君とは仲直りした?」

『仲直りと言っていいかわからないけど、前よりは話すようになったでしょ』

「うん。最近は学校生活とかも電話で話してくれるようになったんだ」

「そう。それは良かったよ」


爽やかに笑う佐伯に桜もつられて笑った
すると思い出したように佐伯は不二と桜を見た


「あっそうだ。聞いて驚くな2人とも
今年の六角中の部長1年だよ!」

「クスッ あんまり自慢にならないんじゃ…」

『確かに』

「まあそー言うな。オジイが決めたんだし」

『(……ああ。そういえばあの人……)』


一瞬難しい顔をした桜はすぐにその表情をかき消した
不二と佐伯は気付かなかったようだ
佐伯はのほほんと続ける


「とにかく半端じゃなくウマいぞ!
氷帝100人斬りの天根と互角に渡りあったんだから」


すると不二と桜の背後から誰かを呼び声がした
それは徐々にこちらに向かってきている


「あーっいたいた!」

「おっ噂をすれば影ってね…アイツだよ」


汗だくになりながらやって来たのは坊主頭の少年
六角中テニス部の1年部長葵剣太郎




「おーいサエさん。そろそろ試合だよーっ!!」




葵は佐伯を呼びに来たようだ
そうして立ち止まると桜が居ることに気づき喜色を浮かべた


「あーっ!!貴女はもしや!!青学のマネージャーさんですか!!」

『え、ええ。そうだけど』


女子であるにもかかわらずレギュラージャージを着ているので分かり易い
面識がなくともこうして言い当てられる事はざらだ
桜はテンションの高い葵に苦笑する


「僕六角中テニス部部長の葵剣太郎です!
いやぁ。見抜く者神崎桜さんの噂は僕もよく聞いています!
サエさんが入院していたと言っていましたけど」

『さっき退院したのよ』

「そうなんですか!!お元気になられたようで良かったです!!」

『フフッ。ありがとう』

「(噂通り綺麗な人だなぁ)」


元気よく話しかけられ、桜もそれに律義に返す
佐伯は暴走し始めた葵を察知して話に割り込んだ


「それじゃあ剣太郎が呼びに来た事だし行くか
コートで会おう2人とも!」

「うん」

『試合楽しみにしてるわ』


葵を連れて遠ざかっていく佐伯
彼の背中に不二は呟くように言った


「ねぇ桜。青学にもいるよね」

『…スーパールーキー?』


言わずもがなリョーマのことである
微笑む不二が頷き、桜も楽しそうに口角を上げた


『クスッ。そうね』

「それじゃ、皆のところに行こうか
きっとみんな首を長くして待ってると思うよ」


不二に促され、桜は彼らの元へと向かった


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