頂を目指す二ノ姫V

□女王の帰還
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その時栞は大爆発が起きたと思ったらしい



「うおぉぉぉぉぉ!!桜先輩ー!!」


「桜ー!!!!」


「神崎が戻って来たー!!」


「退院おめでとーございます!!」


「いよっしゃぁぁぁぁ!!」


「青学の勝利の女神が戻って来たぞー!!」



かなり恥ずかしいフレーズもかなりの音量で飛び交っている
渦中の桜は居たたまれないと表情を引き攣らせていた
栞はその様子に菊丸と何故かハイタッチをしながら楽しんでいた


「(桜ちゃんも最近ああいう顔するんだよね〜)」


かなりの確率で余裕綽々の桜が余裕のない表情をしているのはどこか得をした気分だ
しかし当事者である桜にしてみれば、周りの奇異の目がはっきり言って恥ずかしい


『(……大袈裟すぎる…)』


桜の様子に苦笑して大石と乾が桜の肩をぽんと叩いた


「仕方ないよ。皆本当に心配してたんだ」

「この3日間の練習でもみんなそわそわしててね
まぁそんな奴等には俺と初瀬特製の乾汁バージョンSを試してもらったが」

「ちなみにその"S"は栞の"S"だよ!いやぁ楽しかったな〜」


テンションの高い栞と乾に比例して、部員のテンションはがた落ちだ
その蒼い顔を見ると破壊力のほどが伺える


あれは悪魔の飲み物だ…

初瀬怖い初瀬怖い…

『……うわぁ…』


ぶつぶつと呟くように言う部員は不気味である
桜はひくつく口元を押さえてスミレを見た
腕を組んで、しかし安心したような表情を浮かべるスミレにふんわりと笑う


『ご迷惑とご心配をおかけしました
今日より復帰いたします!』

「大丈夫なのかい?身体は」

『検査結果が出ない事には何とも
だけどやっぱり異常は見られないみたい』


困ったように目尻を下げる桜はしかししっかりとした目で言った


『もしこれ以上みんなに迷惑をかけるようならマネージャーを辞めます
でも、それまでは皆のサポートをできるだけさせてください』


桜の宣言にスミレは一瞬驚いたように目を見開いた
しかしそれもつかの間、桜にニッと笑った


「あたり前だよ
桜がいないなんて大変だからね
こんな逸材を辞めさせる訳無いよ
大丈夫。これからも頼むよ」


いつ倒れるかもしれない身体の人間を抱え込むのはリスクがあるはずだ
それなのに、スミレは桜をちゃんと迎えてくれた
そのことが桜の心を暖める
桜はスミレに一礼すると振り向いた
固唾をのんでその様子を見ていた部員一人一人を見る
そして真摯な目を向けて来るレギュラーを見て
ここにはいない部長を見て
最後に栞を見た
どこか諦めていて、どこか呆れていて、でも誇らしそう
彼女の複雑な表情に、桜は目で謝った


『(私のしてることは矛盾だらけ。でも、私は今が大事だわ)』


昨日ずっと考えていた
ひっきりなしに来る見舞客を見て
彼らの中で自分がかけがいの無い存在として生きていることが嬉しい
この上なく幸せだと感じてしまっている自分に気がついた
もう、何も気づいていなかった前には戻れない
きっと自分の行いは最低で、後悔もすることになるのだろう
それでも、願わずにはいられないのだ


『(今…私はココにいて、皆と一緒に居る)』


いつか離れるなら尚更、忘れ去られるなら尚更
少しでも多くのココロを、自分の中に残したい
誰よりも、自分自身のために


『(これからの私の未来が荊でも、きっと光を見つけられるように)』


桜はきりっとした面持ちで彼らと視線を合わせ、バッと頭を下げた


『ご迷惑をおかけしました
今日からまたマネージャー兼コーチとして頑張ります!』


それを聞いて部員の声は一つになった





「「「「「はいっ」」」」」





「「「「「よろしくお願いします!!」」」」」





ここからまた、始まっていく










おまけ
「ふむ。少し痩せたか?」

『えっ…そう?』

「ああ。わずか3日とはいえ病院で過ごしたんだからな」

『そう…ね』

「俺の見立てでは2.5キロ程痩せて」

「はーい乾くーん!そういうこと言っちゃだめでしょう〜?
あ〜。ここに乾汁バージョンSの残りが何故かある〜!!」

『うわっ……何で黄色なの…?』

「………ぐはぁぁっ!!」




→atogaki
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