頂を目指す二ノ姫V

□王者と女王
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『……えっと…………』


桜は掴まれた手首を見て、掴んだ人物を見下した


『……どうしたの?リョーマ』

「……」


黙ったリョーマはしかし桜の手を離さそうとしない
黙るリョーマに、シングルス3に出る海堂が眉間にしわを寄せた


「…何してやがる越前。桜先輩を離せ」

「………海堂先輩さ、このシングルス3絶対勝つよね」


挑発的に視線を向けられ海堂は青筋を浮かべた
彼の言い方は一々人の神経を逆撫でする
しかも海堂は沸点が低いのでその相性は最悪だ
若干こめかみを痙攣させた海堂は低い声で宣言する


「当たり前だろうが。負ける訳ねぇ」

「なら、桜先輩
必要ないと思うんスけどちょっと俺のアップに付き合ってくれませんか?」

『え?』


驚く桜にリョーマは猫目を細めて顔を覗き込むようにした
ジッと見つめられて桜は首を傾げる
何を言っているのかすぐに理解が追いついていかない
そんな桜の様子にリョーマは眉間にしわを軽く寄せて言った


「ちょっと顔色悪いっすよ
ずっと炎天下にいて具合悪くなっても困るし…
俺のアップに付き合いがてら休んだらどうっすか?」


そう言われると言い返せない
現に先程から少し倦怠感を感じていたのだ
しかしここまで試合を見てきて海堂の試合だけ見ないというのも嫌だった
出来るなら全て、しっかり見届けたい
そう思って黙っていたのだが、リョーマにはバレていたようだ

栞や大石達も心配そうにする中、海堂はジッと考え込んでいた
桜の顔を見て、自分のラケットを見る


「(……桜先輩には………見ていて欲しい……
だが、桜先輩の体調の方が大事だ)」


そう結論付けた海堂は、桜に向き直り言った
自分の試合を見てもらうよりも大事なことがあるのだ


「俺なら大丈夫なんで行ってきてください。必ず勝ちます」

『薫…』

「うっひゃー。海堂君男前〜」


海堂は言えてすっきりしたのかリョーマを見る
その姿は頼りがいのある先輩のものだった


「いーか越前。しっかりアップしておけ
それと桜先輩を頼む」

「ウィース!」

「試合の方は任かして。私がしっかり見ておくよ〜」

『……お願いね栞ちゃん』


にっこりと笑った栞にそう言い、桜は海堂の目を見た
柔らかく微笑んで海堂の手を握る


『頑張って……薫なら大丈夫よ』

「はい!」


はっきりと返事をした海堂は桜に背を向けた
その背中に桜は何とも言えない溜息をついた
いつの間にか、こんなにも頼もしくなっていたのだ


『(……時が経つのも早くなったわね…)』


桜は越前に連れられてベンチから立ち上がり、外へと向かった
























リョーマは屈伸をしながら桜を見る


「それじゃ俺は走って来るっス」

『…そう………じゃあ私は壁打ちの場所で待ってるわね』

「ウィース」


返事をするとリョーマは軽い足取りで軽快に走り出した
桜はそのあとをのんびりと着いて行く
なるべく日陰を歩くようにし、途中自販機でファンタを買っておく
リョーマがよく飲むグレープ味だ


『(………薫のことだし、大丈夫よね…………)』


後ろを訳も無く振り返ってみる
頭に血が上りやすいことが気にかかる
だが海堂も手塚がいなくなり成長しているのだ
大丈夫だと言い聞かせた





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